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吉本隆明は「人を助ける」ミネラルである

2008年8月20日(水)

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 団塊世代からは異論もあるかもしれない。だが、思想家、吉本隆明(よしもと・たかあき)という名前に、特別の思い入れを感じない人のほうがもう多い時代、だろう。

 しかし「よしもとばななって、吉本隆明の娘さんなんだよ、と言われても、それって誰? というような人が、今の僕にとって理想的な相手です」と、糸井重里氏は語る。

 糸井氏が率いる「ほぼ日刊イトイ新聞」は、吉本隆明の講演集CDブック『吉本隆明の声と言葉。』を初め、数々のコンテンツを発売する。いま、彼の言葉を求めている人が多くいる、と糸井氏が確信している理由は何なのだろうか。

――そもそも糸井さんが「吉本隆明」と初めて出会ったのはいつだったのでしょうか。

糸井 高校のときに読んだ『芸術的抵抗と挫折』だったと思います。といっても、当時の僕には分かりっこないですよね。高校生が田舎でぶらぶらしてるくせに、どこに芸術的抵抗があって、どこに挫折があるんだよ、と今、振り返って、自分に言いたくなる。

――糸井さんの高校生時代は1960年代ですね。

糸井 学生運動の時代です。で、ちょっとませた高校生の間では、オマエは『資本論』も知らないのか、というような雰囲気でした。

――それが吉本隆明への原体験になった、と。

糸井重里氏

糸井 いや、原体験ではないですね。だってその時思ったのは、これを書いている人って怒りっぽい人なのかな、ということだったので(笑)。

 吉本隆明がかかわった論争というのは何回かあるのですが、吉本さんは論理で相手を完膚なきまでに叩きつぶそうとするんですね。しかも、ご当人の見た目も地味で、外交辞令的なほほえみがないから、読む方は困っちゃうんです。やっぱり若いときって、何かカッコつけて「思想」に触れてはみても、ちょっとイチゴが載ったりしたものが好きでしょう。その点、ちゃらんぽらん、のらりくらりと、うまいことを言って逃げる花田清輝は面白いんですよ。

――イチゴの誘惑的な甘さがあるんですね。

糸井 花田清輝を読んだときは、ああ、うまいことを言うなあ、と思ったんですが、吉本隆明はそんなことはなかったんです。でも、時代の必要文献だったみたいなことがありましたから。若い子同士がサッカーの話で盛り上がるとき、好きな選手の名前を言い合えると面白いじゃないですか。そんな文化系ジャンルの一つであったわけです。

――必要文献が本気に変わったときとは?

糸井 本当にドカーンとぶつかったのは『最後の親鸞』を読んだときですよ(詳しくはこちら。『最後の親鸞』は国家体制とは何か、政治とは何か、思想とは何か、とはまったく関係なく、ただ、俺が読むべきもの、まさしく自分のためにある本だ、と初めて分かったんです。それが本としての体験で、後はひたすら現物の吉本さんですよね。

――吉本さんと交流が始まったのはいつからなのでしょうか。

糸井 約25年前です。

――糸井さんは、吉本さんの読み解きで生きている、ということもおっしゃっています。そういう方は思想方面に多いとは思いますが、明言される方はあまりいません。

糸井 だって僕が文章を書くときは、吉本さんが言っていることをそのまま書きたくてしょうがないのに、我慢しているんですよ。吉本さんのこの説明で済んじゃうんだから、そう言えば僕としてはもう終わりなんです。だけど、僕としてはそれは嫌なので、少なくとも吉本さんの言葉が僕の言葉になったときに書こう、といつも思っているんです。

――70年代、80年代にコピーライターとして脚光を浴びた糸井さんも、吉本さんの言葉を読み解いていたということでしょうか。

糸井 相当影響があったんじゃないですか。いや、あったと思いますね。あったといっても、その辺りのころは、もっとふわふわしていたでしょうけれど。

――そこはご自分でも分かっていなかった。

糸井 切実さがないですからね。ほぼ日刊イトイ新聞をやっている今の方が、やっぱり人の耳目がこっちを向いていたりする緊張感、切実さがありますから、自分でも自覚できる。

――文化人類学者の中沢新一さんも吉本隆明の影響を受けたと公言されている1人です。

糸井 中沢さんは著作の後書きなどで、はっきり書いていますよね。要するに吉本隆明は灯台だった、と。そんな中沢さんは例外的ですね。学者さんは「目印だった」なんて平気で言えないですから。

――糸井さんはその吉本隆明を今の時代の読者に届けようとしているわけですが、40代前半以下の人々は、名前に触れた経験も少ないのではないでしょうか。

糸井 経験がなくてもかまわないんです。80年代に「よしもとばなな」という作家が登場して話題になったとき、みんなが何で騒いでいるか分からない。いや、吉本隆明の娘さんなんだよ、と言われても、それって誰? というような人が、今の僕にとって理想的な相手です。

――吉本さんの名前を知っていて、本を読もうとした世代でも、分からなかった、という人は多いと思います。かつて私も3行ほどで挫折しました、正直に言います。

糸井 そうはいっても、吉本さんの本は日本語で書かれているから、何だかんだいっても、一応は読み通せるんですよ。まったく分からないことが書いてあるわけじゃない。ただ、何のためにそんなことを言っているかが分からない。

――そこなんです。

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「吉本隆明は「人を助ける」ミネラルである」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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