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記者クラブは官庁の下部組織なのか~『ジャーナリズム崩壊』
上杉隆著(評:荻野進介)

幻冬舎新書、740円(税別)

  • 荻野 進介

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2008年8月19日(火)

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ジャーナリズム崩壊

ジャーナリズム崩壊』上杉隆著、幻冬舎新書、740円(税別)

 先月、日弁連が、いま進んでいる法曹人口拡大策の見直しを求める緊急提言を発表した。このままのペースで増員を続けると、養成過程にひずみが生じ、質の担保が困難になる、というのが表向きの理由だが、本音のところは、「数が増えすぎると、一人当たりの稼ぎが減る。新参者はもう要らない」という危機感からだろう。

 国家機関に監督されない独自の自治権の所有を自慢げに言い募る日弁連だが、その内実はライバルの数を制限し、無駄な競争を起こさせないための同業者組合、つまりギルドに他ならない。

 しかし、ギルドとしての弁護士会なんて、まだまだ可愛い存在だ。司法制度改革という錦の御旗が翻った途端、一旦は、変わろう、もっと門戸を開放しよう、と健気にも決意したぐらいだから。そう、日本にはもっと結束力の強いギルドがある。新聞・テレビ・通信社の記者しか所属できない記者クラブである。外国のメディアにもその名がとどろき、キシャクラブで意味が通じるというから大変なものだ。

 本書は、そうした日本有数の強固なギルドに属する記者たちの実態を赤裸々に暴き出す。政治家の多くも、ギルドの一員であるとの疑いが濃厚である。

 といっても、眉間に皺寄せて実態を憂うる態ではない。担当政治家が出世すると自分も社内で出世する、人気芸能事務所のトップにひれ伏して写真貸与に及び腰、独自にスクープを獲ったもの、他紙の追随がないことに不安を覚え虎の子のネタを思わずリークしてしまう等々、上杉隆が見聞きした、日本の記者たちの「喜劇の物語集」というふれこみなのだ。上杉は議員秘書出身で、安倍政権の迷走ぶりを活写した『官邸崩壊』(新潮社)で知られるフリーのジャーナリストである。

 記者クラブは、1890年、帝国議会が発足した時、情報を隠蔽しがちな諸官庁に対し、情報公開を求める組織として結成された「議会出入り記者団」を嚆矢とする。戦時中、一旦消滅させられたが、1949年、記者同士の親睦と社交を目的に復活。

 上杉曰く、ここまではよかったのだが、1978年、記者クラブの目的を、新聞協会が「日常の取材活動を通じて相互の啓発と親睦をはかる」と変更した途端、おかしなことになった、というのである。親睦団体から取材の拠点へ、その性格が大きく変わったというのがポイントだ。

 その結果、どんなことが起きたか。

 上杉のようなフリー記者や外国人記者の場合、会見の場所にさえ入れなくなってしまった。一度、上杉は自民党本部で開かれた記者会見にこっそり潜り込んだことがあったという。大人しく座っていれば問題はなかっただろうが、挙手して政治家に質問してしまった。するといきなり「会社の名刺を出しなさい」と男が近づいてきて、「フリーランスで所属はない」と答えると、こう言われたという。

「不法侵入だな、あんた」

答え合わせしないと不安だよね?

 ギルドだから、領域を侵す部外者には強くても、クラブ内では仲良しごっこ、競争を避ける体質が濃厚だ。それが典型的に表れているのが「メモ合わせ」である。政治家の声が聞き取れなかったり、世間が注視する政治家が重要な発言をした場合、自分の取ったメモが正しいかどうか、他社の記者と読み合わせをする。テストが終わった後、教室の片隅で問題の答え合わせをしているガリ勉君を髣髴とさせる。これをやるから、新聞の政治紙面はどれも似たりよったりになるのか。

 あるいは、自分たち以外のメディア、特に出版社系の週刊誌に対する不当な蔑視である。新聞がよく使う「一部週刊誌」という表現にそれがよく表れていると上杉は言う。誌名を明らかにしないのは、週刊誌はメディアにあらず、といった、ちっぽけな面子を保つための行為だろう。これこそ情報源を明示しない日本のマスコミの悪癖であり、結果的に、もっと詳しい情報を知りえたかもしれない読者へのサービスの低下にもつながっている、と指摘する。

 こんな風だから、それを利用して図に乗る役所も出てくる。その典型が宮内庁だ。宮内庁記者クラブでは、記者は聞きたいことを自由に質問することもできず、宮内庁が“ご下賜“下さる皇族の写真や映像を待つのみ。それ以外の撮影は自粛せよ、と厳命し、違反した報道機関に対しては、当分、便宜供与は行わない、という、当の宮内庁が作成したメモを明らかにして、上杉はこう嘆くのだ。

〈これが公権力と報道機関のやりとりだと思うといやになってくる。(中略)一体いつから記者クラブは行政の下部組織に位置し、命令を受ける立場になったのだろうか〉

 こうやって、現場の矛盾を追及していくだけでなく、その筆は報道機関のあり方にまで及ぶ。上杉はニューヨークタイムズの東京支社で働いていたことがあり、その経験が批判の矢の出所になっている。

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