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聞こうとする耳だから聞けた言葉~『ドキュメント死刑囚』
篠田博之著(評:朝山実)【奨】

ちくま新書、740円(税別)

2008年8月20日(水)

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評者の読了時間4時間30分

ドキュメント死刑囚

ドキュメント死刑囚』篠田博之著、ちくま新書、740円(税別)

 凶悪な事件が起こるたび、違和感を抱くことがある。連行されていく容疑者を追いかけていた取材記者たちが口を揃えて、「犯人から、反省の弁はきかれません」。

 逮捕直後に反省を口にするくらいなら、そもそも罪を犯したりしないだろうし、仮に口にされたとしても納得がいくものだろうか。

 犯罪にかかわらず、反省したり、気づいたりするには時間がかかる。いい悪いではなく、それが人間の愚かさではないだろうか。

 本書は、宮崎勤、宅間守、小林薫、三人の「死刑囚」と、長期にわたり交流を持ち続けてきた、月刊誌「創」編集長によるドキュメントだ。

 「噂の真相」がなくなったあと、アンチ・マスコミ的な存在感を強めつつある「創」誌だが、異彩を放つようになったのは、幼児連続殺人事件の宮崎勤の手記を載せるようになったあたりからだと記憶している。

 1996年11月。逮捕から7年が経ったころ、宮崎から著者宛に最初の手紙が送られてきた。12年間に交わした手紙は300通余にも及んだという。

 創出版から、宮崎の手記が二冊(『夢のなか』『夢のなか、いまも』)出ている。けれども、「人と会うのはいやだ」と拒んでいた宮崎がはじめて著者と面会するのは、最高裁で死刑判決が出た2006年1月。

 常識の尺度からはみでた宮崎勤を理解しようとする、著者の根気を要するやりとり、戸惑いが、本書から伝わってくる。

 たとえば、猛暑といわれた2001年夏、著者は、独房にいる宮崎に、どう対処しているのかと質問したところ、こんな手紙が返ってきた。

〈そうですか、そういう話題になっているのですか。暑さとか感じないので、対処などどうもしてませんよ。別に冷房がなくてもどうのこうのありませんよ〉

 平気を装っているのか、どうか。解釈はそれぞれだろうが、宮崎がいうには、控訴審の法廷でも死刑判決が読み上げられる間の記憶がない。なぜなら「いつの間にか少し寝ていました」。

ホームドラマの幻影

 宮崎勤には、立ち向かわなければならない現実にあわせて、「自分」が消失していく傾向がみられる。大好きだった祖父を生き返らせるために奇妙な儀式を繰り返したのもそのひとつだ。

 奇行を整合させるために、彼は独特の語彙を編み出し、他人には理解しがたい理屈を創作した。どんなに奇妙なものであれ理屈をつくることで、まるでそうした考えが既存のものであるかのように思いこむ。

 神戸の児童殺傷事件の少年がそうであったように、キテレツな妄想によって自分を支えようとした。そう理解したがるのは、ワタシのように常識にとらわれてしまっている人間としては、それが自然だからだ。

 大阪教育大学附属池田小学校の児童殺傷事件の宅間守と、奈良幼女殺害事件の小林薫。このふたりは、自ら「死刑」を求めていた。弁護人がした控訴を、本人が取り下げ、一審で「死刑」判決を確定さている。

 その一方で、謝罪の弁を公にすることはなかった。情状酌量されたくないというのが、理由だ。宅間にいたっては、国を相手に損害賠償請求訴訟まで起こそうとしていた。早期の死刑執行を求め、同意しなかった弁護人に怒りをぶちまけている。

 宅間の望みをかなえるかのように、確定から一年という異例の速さで、刑は執行された。立ち会った大阪拘置所の職員によれば、最期は落ちついた態度だったという。償いのつぶやきすら残すことなく、理解しがたいキャラクターを印象付けたまま、この世界から消えていったわけだ。

 本書に取り上げられた三人に共通しているのは、弱い子供を狙った卑劣な犯罪であること。事件にいたる要因として、三人ともに家族環境を挙げていることだ。とりわけ「父」への憎悪の激しさは特徴的である。

 宮崎の場合は、祖父への強い思慕を語る反面、両親をニセモノと厭い、「父の人」「母の人」、しばしば「こいつら」と呼んでいた。

 ニセモノと疑うようになったきっかけとして宮崎は、悩んでいた手の障害について両親が理解してくれなかったことを精神鑑定医に語っている。テレビドラマのほのぼのとした家庭と見比べ、「うちは違うな……。俗にいわれる愛情がないというのかな」。そう思ったのは、宮崎が思春期のころだという。

 この一節を目にして、ホームドラマを見るたび同様の感想を抱いたことがワタシにもあったのを思い出した。

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