「米国ゴルフツアー “たった一言”ストーリー」

ハングリー精神の真髄――申智愛

I'm hungry. I want to eat something.(お腹が空いた。何か食べたい)

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2008年8月21日(木)

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申智愛

I'm hungry. I want to eat something.

― 申智愛

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(写真:田辺 安啓)

 便利なアメリカ生活に慣れた者が突然イギリスへ赴くと、きわめて不便に感じるのは、おそらく商店街やレストランの閉店時間が妙に早いからだろう。今年の全英オープンに初出場した今田竜二は「スタバに行ったら夕方の6時に終わっちゃっていたんですよ。信じられない!」。

 24時間、夜も眠らない都会生活に慣れきった人間にとって、イギリスの閉店の早さは不便で困りもの。ただでさえ、そう感じるのだから、全英オープンや全英女子オープンといったメジャーに出場する選手にとっては、夕食をどこでどうやって食べるかは大問題なのだ。

 キッチン付きの民家を借り切り、世話人が料理してくれるのなら問題はないが、たった一人で英国に乗り込んだ選手、ましてや、うら若き女の子となれば、店の灯りが消えた夜の街は、食事どころではなく、淋しいばかりの暗闇だ。

 全英女子オープンを制覇した申智愛は、サニングデールと戦いながら、そんな夜の孤独とも、ひっそりと戦い続けていた。

 振り返れば、申と初めて言葉を交わしたのは昨年の全英女子オープンだった。と言っても、それは大会終了の翌日、英国内の空港だった。ゲート近くの椅子に一人でポツンと座っていた申に話しかけると、うれしそうな笑顔になった。その笑顔は、単身で外国へでもどこへでも乗り込む勇気とは背中合わせに彼女が抱く孤独感を物語っていた。やっと言葉を交わす相手ができた――安堵感が入り混じった彼女の笑顔は、明らかにそう言っていた。

 だが、言葉を交わすと言っても、当時の申の英語力は散々で、なかなか話が通じなかった。それでも、日米韓の3ツアーを掛け持ちながら、いつか世界一になりたいと思ってがんばっていることを一生懸命に説明してくれた。

 今年。メジャー会場で幾度となく申と話をした。1年足らずのうちに格段にアップした英語で彼女はよくしゃべった。鋭い観察眼で分析したコースの特徴や自らの攻略法を、ほんわりした笑顔をたたえながら、あれこれ語ってくれた。

 今年の全英女子オープンの練習日。「目標は優勝でしょ?」と問いかけると、申はニコニコしながらちょっとうつむき、「うん!」と頷いた。笑顔の裏側に「絶対に勝ってやる」という激しい闘志が隠されていたことは、その場の空気で感じられた。そして、その闘志を燃やしきり、申は大会を制した。

 優勝会見。申のこの一言に、すべてが集約されていた。

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著者プロフィール

舩越 園子(ふなこし そのこ)

在米ゴルフジャーナリスト。早稲田大学政経学部卒業後、広告代理店勤務を経て、独立。1993年渡米。ロサンゼルスを拠点に米国のゴルフ界を取材し続け、日本の新聞・雑誌等へ幅広く執筆中。



このコラムについて

米国ゴルフツアー “たった一言”ストーリー

米国のプロゴルフ界を取材しながら常々感じていることがある。それは、大物選手ほど簡単な言葉で奥深い話をするということだ。奥深いと言っても、哲学めいた小難しい話をするわけではない。選手が口にした一言に、その選手のバックグラウンドや素顔を重ね合わせて咀嚼すると、なるほどと頷ける何かが浮かび上がる。その「何か」は我々の人生にもあてはまり、ときには「目からウロコ」のような効果さえ発揮してくれる。そんなとき、その一言に感激し、その選手の大物ぶりにあらためて脱帽させられるのだ。

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