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理想主義者のダンナ芸は侮れない~『ポスト消費社会のゆくえ』
辻井喬・上野千鶴子著(評:清野由美)

文春新書、900円(税別)

2008年8月21日(木)

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ポスト消費社会のゆくえ

ポスト消費社会のゆくえ』辻井喬・上野千鶴子著、文春新書、900円(税別)

 『おひとりさまの老後』が当たった上野千鶴子・東京大学大学院教授はジェンダー論と同時に消費社会論の研究者でもある。詩人、作家の辻井喬は本名、堤清二。元セゾングループの代表だ。

 1990年代のはじめにセゾングループが社史「シリーズ・セゾン」(全6巻)を編んだ時、上野氏が編集委員・執筆者として参加したという縁が二人の間にはある。取材・執筆時は、まさにバブル景気のピーク。そして出版後に、そのカーブは急激な下降線を描いた。そんな大波と寄り添ったのが、まさにセゾングループだったわけだ。

 取材を通して、セゾングループの高揚と凋落を目の当たりにした社会学者が、グループを率いた元経営者に試みるインタビューは、単なる回顧談義に終わらない。

〈この機会にセゾングループの失敗を検証させていただきたいと思います。(中略)後知恵にすぎませんが、四つのシナリオを用意しました。第一、セゾングループの失敗はその体質にある。第二、グループ内の一部の失敗のダメージがほかに波及した。第三、この失敗は総帥・堤清二の経営責任にある。第四、堤清二のパーソナリティに問題がある〉

 と、相手に向かう上野氏は、相変わらずのアグレッシブさ加減だ。

 普通の元経営者なら、まず、こんな質問が出たところで気分を害し、対論は成り立たないことだろう。その困難な対論が、ここでは「辻井喬さん」を相手にしたことで実現している。「堤清二さん」と同じ経験を持ちながら、それを別の場所から俯瞰できる人格を媒介に、「セゾンの失敗」を追検証しながら、戦後消費社会の誕生と爛熟をあぶり出す流れには、相当の読み応えがある。

 対話は1950年代の西武百貨店前史から始まり、70年代~80年代の黄金期、90年代の失速、解体期まで3章にわたり、時間軸に沿ったセゾングループの歩みをトレースする。

 池袋の駅前で「下駄ばき百貨店」と軽く見られていた西武百貨店が、時代の前線に踊り出たのは70年代後半。その中心にあった戦略が、広告によるイメージ展開と、文化事業の二つだった。そこから、団塊から60年代生まれの世代に共通したセゾン体験というものも生まれた。「おいしい生活。」「不思議、大好き。」のコピーが記された西武百貨店のポスターは、今でも私たちの記憶に刻まれているし、マルセル・デュシャンの作品を見に、軽井沢高輪美術館まで喜んで足を運んだこともいい思い出だ。

そこまで自省しなくても…

 だが西武黄金期の戦略ですら、上野氏にかかると堤清二の誤謬になってしまう。

〈私の限られた観察からみても、西武の比較的とんがった文化事業のビジターと、西武百貨店のカスタマーとは重なりません。百貨店を素通りして、劇場や美術館に行く人たちが大半でした。だから販売促進にはつながらなかったと思います〉(上野氏)

 どうだろう? 西武の文化事業をきっかけに、西武百貨店で買い物をした人たちは確かに存在したと思うのだが。実際、セゾン美術館を併設した西武百貨店池袋店は、87年に百貨店の全国売上高第1位を達成している。このあたりは経営者として誇ってもいいのではないか。

 しかし俯瞰人格の辻井氏は従順だ。

〈そのとおりだと思います。だから変わった文化事業をやる西武百貨店という知名度だけが広がっていった〉(辻井氏)

 知名度と同時にグループは、大規模リゾートやマンションの開発、金融事業など拡大路線をひた走った。が、それらはバブル崩壊で未曾有の解体にさらされた。この辺りの失敗は、元経営者にとっては語るにもつらいことだと察する。だがここでも、上野氏による切り込みに対して、辻井氏は終始、時には過剰なまでに内省的である。

「私は経営者としてすでになまっていたんですね」
「経営戦略上の意思決定について、私は民主主義的ではなかった、と言えるかもしれません」
「サホロリゾートの失敗は、経営者に責任がありますね」
「私はいかに説得力の弱い経営者だったかということを痛感しますね」

 と、読んでいるこちらが歯がゆいほど。

 そこで、あらためて大きな疑問にかられるのである。果たして堤清二は「経営者」だったのか。

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「理想主義者のダンナ芸は侮れない~『ポスト消費社会のゆくえ』
辻井喬・上野千鶴子著(評:清野由美)」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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