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「ほぼ日」は、吉本隆明の思想の実践だった

2008年8月27日(水)

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――今回の糸井さんによる吉本隆明プロジェクトでは、講演アーカイブ「吉本隆明 五十度の講演」を数量限定で発売し、それを売り切ったら、音源をネット上で公開すると計画されています。

糸井 いわば吉本隆明のリナックス化です。

――それはどう発想されたのでしょうか。

糸井 思い付いちゃったんですよ(笑)。第1回で言ったように、どこかに豊かなため池があります、という状態があっても、ある仕組みを整えないと、人はそこの水を最大限には利用できないんですよ。せいぜいが防火用水になったり、あとは近所の人が水田に引いたり、で終わり。すると、そのうちに池の水そのものが腐っていくんですね。このため池が講演テープの音源だと思ってください。

――糸井さんの許には吉本さんの過去の講演の音源が170本集まったとか。

糸井 弓立社の宮下和夫さんという編集者の方が数十年にわたって集めてこられた音源なんです。その中から50回分を選んで115枚のCDにして、1セット5万円、3000部限定で売ります。

――1セット5万円、3000部。その後にフリーソフト化、というのは採算面でも成り立つものなのですか。

糸井 その辺りはずいぶんいろいろ計算したんです。僕は文化活動とビジネスをきちんと両立させたい。そうでないと、文化は残っていかないと思うから。

――吉本隆明講演会「芸術言語論」も、単体のイベントとしてきちんと採算が合ったと、舞台上で挨拶されていましたね。

糸井 はい。みなさん、安心してください、ちゃんと儲けが出ました、と(笑)。つまり、それは、吉本さんの講演には価値がある、その価値のために、会場に足を運んでくださった方々がいる、ということの証ですから。

――その、吉本隆明の価値とは。

糸井 ちょっと話をもとに戻しますと、吉本さんが今まで言ってきたことというのは、ため池の水で、みんなを潤すものだと僕は思っているんです。ですから、まず、その水を腐らせないようにすることが大事。腐らせないということを単純に言えば、テープの劣化を防ぐこと。要するに全部をデジタル音源にしてしまって、ハードディスクに残すことを、あちこちでやってもらおう、と。

糸井重里さん

 とにかく自分の気持ちの中に、過去から現在までいろいろ具体的に、吉本さんに助けられたという思いがある。例えばキムタクが日本の少年、少女たちの何かを助けたとか、ビートルズが世界の同世代の何かを助けたとか、歴史の中には、社会やそこに生きる人々を豊かにしたり、助けたり、ということができる人がいるんです。

 僕の成分の何十パーセントかはビートルズでできていて、同じように何十パーセントとかは吉本さんでできています。ビートルズの音源はいまだに有料のまま、多くが残っていますが、吉本さんに関しては、ため池そのものの存続が危ない。音楽は別にして、今まで物を考えたり、しゃべったりしてきた人たちは、どんなに高名でもみんなそんなもので、吉本さんもそのうちの1人だったと言えなくもない。だって夏目漱石が松山の学校で教えていたときのテープなんてないですものね。あったら聞きたいでしょう。

――聞いてみたいですね。

糸井 森鴎外が医者として講義しているところとか、もっと遡って本居宣長や、賀茂真淵がどこかで話しているところとか、全部聞きたいですよ。でもないんですよ。せいぜい小林秀雄の講演集が4本ほど出ているぐらいです。そんな状況の中で、吉本さんに関しては講演テープがあるわけで、だったら、今の時代以後は、人の話も保存できるぞ、と思いまして。

――ただし、そこで特定の図書館所蔵という発想にはならなかったんですね。

糸井 とにかくみんなが持っている状態にすれば一番いい、というのが次のステップでした。ということは、まずは商品化です。吉本さんには損をさせないということを前提にして、どういう展開ならウチも損を出さないでいいか、といろいろ考えるわけです。

 だったら、ため池の水を「たる酒」にして、ちゃんとこもかぶりにデザインも施して、売りましょう。で、お試しに飲む用の2号瓶も作りましょう、と。

――こもかぶりがCD115枚で5万円のパッケージで、2号瓶が抜粋版のCD+ブックレット「吉本隆明の声と言葉。」ということですね。

糸井 そうなります。大儲けは考えていませんが、損は嫌でした。そう考えると、1つの商品の価値を高めて、少ない部数で設計するのがいいのではないか。その時「5万円」「3000部限定」というのが、いちばん欲しい人の購買動機につながる数字だと思えたんですね。だって5万円をCD115枚で割ると、1枚あたりは500円以下という、すごくお得な価格になるでしょう。そこで、一気に数年以内に売り切る、と売り方のイメージも確定できました。

――薄く、長く、の戦略ではない、と。

糸井 はい。で、ある一定の利益が出たら、それ以上、いつまでも儲けたいと思わない方向に価値を求めてみたかった。吉本さんの講演集はきっと、お金がないけど聞きたい、お金のないやつに聞かせたい、という人がたくさん出てくると思いました。となると海賊版を作るとか、そこまでいかなくても友人同士で貸し借りをするのは目に見えています。

――吉本さんの講演に限らず、すべてのソフト制作者が今、その課題を抱えています。

糸井 著作権を強化して、吉本さんの音源をただで聞いてはけしからん、とやるのか、そうではない考え方をするのか。その辺りを僕は真剣に考えました。

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「「ほぼ日」は、吉本隆明の思想の実践だった」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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