かつてトレンディードラマが全盛の時代、脚本家の橋田壽賀子さんが「視聴率なんかどうでもいい」と覚悟を決めて書いたのがドラマ「渡る世間は鬼ばかり」。古くて、新しい家族の問題を正面から扱って大ヒットし、もう20年近くも続編が制作され続けています。その橋田さんが独自の、時代を超えた夫婦論を自由に語った新著が『夫婦の格式』(集英社新書)。妻の本音を知りたい男性にも、ぜひお薦めしたい本です。いつの時代も、夫婦にとって一番大切なものとは何でしょうか? 『夫婦の格式』の中から、男性にとって気になる言葉をいくつか抜き出し、橋田さん本人に解説していただきました。
「男は女を変えられない。それだけではありません。男は自分自身も変えられない。というより、自分を変えることがいけないことだと思っている。自分が自分でなくなってしまう、と恐れているのです」
―― 先生は、亡くなられたご主人との結婚生活の中で、男は変わらない、変えられないと実感されたわけですか?
橋田壽賀子(はしだ・すがこ)
1925年京城(現ソウル)生まれ。日本女子大学卒業後、早稲田大学に入学、中退し、松竹に入社。その後、フリーの脚本家に。66年に岩崎嘉一(当時TBSプロデューサー)と結婚し、89年に嘉一のガンのため死別。代表作は「となりの芝生」「おんな太閤記」「おしん」など多数。90年から始まった「渡る世間は鬼ばかり」は今も続編が続いている。著書に『夫婦の時間』『ひとりが、いちばん!』など
橋田 そうですね。男って、プライドが高くて、すぐに「沽券に関わる!」とか言うじゃないですか。たぶん変わるのが嫌だし、恐いんですよ。ワガママだしね。ただ、亭主がワガママなのは、女房に甘えているんだと思うんです。私は、それが分かるまでに、結婚後2年くらいかかりましたけれども。
――その間、ずいぶんと喧嘩されて、ご主人の背広を切り刻んだこともあるとか。
橋田 (笑)そうそう。私が結婚したのは、脚本家として自信を失っていた時期で、月給が欲しくて結婚したようなものなんです。しかも40歳になるまでずっと一人でいて、その後に女房にもらってもらったわけだから、本気で普通の主婦になろうと思っていました。それ以前は、ずっと戦ってきたわけですよ。男社会の中で。ところが、結婚して、戦わなくてもいい人ができた。甘えられる人がいる。尽くしてあげる人がいるというのがすごく新鮮でね。ご飯もちゃんと作って、完璧な主婦をやろうとしていたら、主人は、私の作ったご飯には見向きもしないの(笑)。帰ってくると、突然、ほかのものが食べたいと言うんです。お茶漬けを出せとか、ソーメンを茹でろとか。でも私が何か作って、用意しておかないと、それも嫌がる。しかも、いつ帰ってくるかも分からない。ずいぶん喧嘩しましたねえ。
――最初は、帰るコールも要求したそうですね。
橋田 電話なんか10円あればできるんだから、帰るコールしてくれと言っても、絶対にやらない人だったんです。だから頭にきて、背広を切ったりしたんですよ(笑)。ただね、彼がそのうち、人を連れて帰ってくるようになったんです。当時の家は麹町にあって、主人が勤めていたTBSの人はもちろん、日テレの人もフジの人も来る。親しくしている俳優さんたちも来る。連れて来られる方は迷惑なんでしょうけれども、主人にしたら、俺は悪いことはしてないよって、弁解してるつもりなんですね。夜はこういう仕事関係の人たちと一緒に飲んでるんだから、俺は悪いことはしてないんだと。それが、私にも分かってきて、「あっ、この人、やっぱり私が恐いんだな」と。「ここまでするんだから、けっこう、私のこと気に入ってるんだな」とも思いました。そう思ってからは、あまり怒らなくなった。
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