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「世界は自分に優しくない」という解毒剤

谷口悟朗監督「コードギアス 反逆のルルーシュR2」(2)

  • 渡辺由美子

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2008年8月29日(金)

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―― 今の10代の子たちを中心に、若い人には「夢のようなスゴイものを、努力をしないで獲得できる」という思い込みがあるとのことでしたが、どうしてそうなってきたのだと思いますか。

谷口: 理由は大ざっぱには存在しているんですよ。例えば少年漫画を読むと分かると思うんですけど、時代が下るにつれて、主人公はどんどん努力をしなくなっていくんです。もしくは主人公は、努力は漫画では見えないところで済ましたという話にしておいて、漫画のコマには出てこないようになっているんです。

―― 「努力」に対する価値が減ったということですか。

 読者が、「努力によって何かを勝ち取る」という“物語”に夢を見なくなったんじゃないですか。

 「巨人の星」(1966)がブームになった頃は、まだ努力に夢があったはずなんですよ。星飛雄馬は、大リーグボール養成ギプスをしてウサギ跳びをして苦労をすれば、長屋生活から脱却して、東京タワーも見える高層マンションに住むことができると(笑)。物語の登場人物には、金持ちのボンボンも何人か配置されているけれども、たとえ貧乏な家に生まれても、努力をすることによって、ボンボンと同じフィールドに行けて、勝つことができるという夢があったんですね。それがある種、ジャパニーズドリームだったはずなんですよ。

―― 60年代、70年代は日本の経済成長の後押しもあったから、努力した分、報われたんですね。

 ところが80年代くらいから、日本人の収入がある程度平たく均一化されてきたところで、野球漫画の有り様も変わったんです。例えば『タッチ』には、社会的に過剰な上昇志向は存在しないですよね。登場人物たちの貧富の格差というのは、狭い幅の中に抑えられていて。主人公の夢が、「今をどう楽しんでいけるか」というところに移っていったと思うんですよ。それがたぶん『タッチ』や『うる星やつら』といった作品が持っていたものだと思うんですよね。

 ただ、そのときにもまだ別の夢が存在していた。いい大学を出ていい会社に入れば、もしくは一芸に秀でていれば、それなりの安定した人生コースになるという夢ですね。

「甲子園に出ても、人生は楽にならない」

―― 90年代初めの頃には「一芸入試」が登場しましたね。

谷口悟朗氏

谷口悟朗(たにぐち ごろう)
1966年生まれ、愛知県出身。フリーのアニメーション監督、演出、プロデューサー。代表作は「無限のリヴァイアス」(1999年)、「プラネテス」(2003年。この作品で星雲賞を受賞)、「ガン×ソード」(2005年)などがある。深夜枠の番組ながら大人気となった「コードギアス 反逆のルルーシュ」(2006年)で注目を集め、続編の「コードギアス 反逆のルルーシュR2」が日曜夕方5時からMBS、TBS系列で放映中(2008年8月現在) (写真:鈴木 愛子 以下同)

 ええ。たとえいい学校に入れなくとも、一芸に秀でていれば、それを手がかりにして上昇していけると。ところが、「コードギアス」制作のためにリサーチした限りでは、今の子供たちは、一芸に秀でていることが、イコール上昇とは思えなくなってきているんですよ。

―― えっ、そうなんですか。

 一芸に秀でることができたとして、その後でいいことがあるのかというと、そうでもないようだと。将来プロスポーツ選手になりたいと思ったとする。ところが今は、ネットとかメディアによって、スポーツ選手の「その後」まで伝わってくるわけですよ。そうしたら、ほとんどの選手が、一生スポットライトを浴び続けられるわけではないと。そうした情報が嫌でも入ってくる。

 一芸に秀でるといっても、国体だったり、甲子園に出たぐらいではだめかもしれない、じゃあどうするんだということで。

―― 頑張っても報われないと思うと、頑張る気持ちは起きにくいですよね。

 結局、情報が広がり過ぎてしまったが故に、子供たちは将来について不安になることが増えてきたと思うんですよ。加えて、都市銀行が潰れ、官公庁も解体され、成果主義だ、格差社会だと、日本の社会自体が不安定になってきて、子供たちに安心を与えられなくなってきたんですね。

 勉強していい大学に入って、いい会社に就職したからといって、それが永久に続く保証もない。一芸に秀でても幸せが約束されない。じゃあ何を目標にすればいいんだと。

 社会的ステータスといったものはどうしたら得られるのかとなると、これが微妙で、何が上なのかという判断基準が存在しませんよね。「いつかはクラウン」という時代でもないし。

 今の10代の人たちからすると、当然、不安だと思うんですよね。間違いなく。

生きていけるが、目標が持てない

―― そうですね。何をしても自分の将来のためになるとは思えないということですから。「努力」の価値が減ったのも、そういう理由からなのかもしれません。

 将来の目標が見えなければ、結果的に、組織とか社会体制に対するある種の忠誠心というものが薄れていきます。反動的な部分もあるでしょうが、話を分かりやすくするためにそこは省略させてください。そうすると、組織のために働くより、まず自分が生き残らなきゃいけないというところにいくわけだから、転職を繰り返すとか、そういった形の発想が生まれてくるんじゃないかと。

 たちが悪いことに、生活していけちゃうんですよね。微妙に。これがもっと経済的に貧しかったりすると、明日のメシ、本気でどうしよう、というところに突入しちゃうと思うんですけど。明日のメシのためにはどんな仕事でもやらないと、と覚悟を決めるほどの状況でもない。

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