• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

無法な使用者には法で立ち向かえ~『人が壊れてゆく職場』
笹山尚人著(評:荻野進介)

光文社新書、760円(税別)

  • 荻野 進介

バックナンバー

2008年8月28日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

評者の読了時間2時間05分

人が壊れてゆく職場──自分を守るために何が必要か

人が壊れてゆく職場──自分を守るために何が必要か』笹山尚人著、光文社新書、760円(税別)

 面妖なこともあるものだ。一時期、プロレタリア作家、小林多喜二の代表作、『蟹工船』が、20代の、いわゆるワーキングプアの若者を中心に読まれていたという。

 ソビエト領であるカムチャッカの海に侵入して蟹を取り、加工して缶詰にするボロ船を舞台に、人間的な権利も尊厳も根こそぎ奪われ、命を落とすほどの過酷な労働を強いられる乗組員の姿が描かれる。その姿が、低賃金で働かされいつ解雇されるか分からない、自分たちの姿と重なる、というのだ。何を寝ぼけたことを言っているのだろう。

 この作品の発表は1929年。今から約80年前のことだが、過酷な労働状況という点は認めるにしても、当時と今とでは決定的な違いがある。労働者の保護立法が戦前と戦後では竹槍と鉄砲ほどの差があった。当時は労働基準法も最低賃金法もなかった。組合の合法化を目指した労働組合法制定の試みは関係者の粘り強い努力にもかかわらず、1931年に頓挫。非合法下の共産党に入党した多喜二が拷問死させられたのがその2年後だった。

 過去の、それもフィクションに現実を投影する暇があったら、いざとなれば、自分たちの身を守る最大の武器となる労働法規をしっかり学んでみたらどうだろう、とでも言いたくなる。

 手ごろなテキストがある。こむずかしい理屈は前面に出さず、法律が無視され労働者の人格や生活がないがしろにされている職場の実態を紹介する一方、法律を武器に、そうした職場を放置している企業と戦う方法を指南する本書がそれである。

 取り上げられている事例は弁護士である著者が何らかの形で解決に関わったものばかりだ。判例をなぞっただけの無味乾燥な記述は皆無で、ある意味、弱い者に味方する正義の弁護士が快刀乱麻を断つノンフィクションのようにも読める。

 本書が最も力を入れて説くのが「労働契約とは何か」ということである。労働者が社員として雇用されたということは、企業側と労働に関する契約を結んだことを意味する。ここまではいいが、以下をきちんと認識している人が少ない、と著者は強調する。

 契約とは約束である。つまり、「契約は他方当事者の了解なく変更できない」という契約法の大原則は、労働契約にも当てはまるというのである。

就業規則の制定・改定は使用者の権限だが…

 その際に重要なのが就業規則である。読者のみなさんも一度は目にしたことがあるだろう。職場の規律や労働条件について記載された文書のことだ。この就業規則は労働契約の内容そのものとなることが多い。

 ある日、不動産会社を退職した島崎さんという男性が「退職金の額が少なすぎるんですが…」と著者に相談にやってきた。彼の基本給は35万円。就業規則の一部である退職金規定によれば、基本給に応じて退職金は支払われるというが、実際の支給額はそれより遥かに少ない額で、支給額から逆算すると、基本給が26万円に下げられて計算された、としか思えなかった。

 思い当たることがあった。辞める数カ月前、総務担当係長だった島崎さんに、ある役員が「お前はこれから(係長格より下の)店長格だからな」という不可解な言葉をかけていたのだ。

 著者は、彼が起こした差額退職金の返還を求める裁判で担当弁護士を務めた。結果、原告側に有利な形で和解が成立したが、これは著者の尽力によるもの、というよりは、会社側の措置がいい加減だから勝てた事例、と振り返る。すなわち、会社側が実際に島崎さんを店長に配置転換させ、それに伴い基本給を減額する、もしくは就業規則を変更し、係長の基本給を26万円に下げていたら有利な和解は困難だった、というのだ。

 なぜなら、就業規則は労働契約の基礎ではあるが、その制定および改定の権限は使用者のみに与えられているからだ。

 使用者は、従業員代表の意見を聞く義務はあるが、それに拘束されることなく、規則を作り、適宜、内容を変えることができる。多数の労働者を一定の規律のもとに就労させることで、会社組織は統一され、それにより生産性も向上する。それぞれの労働者と一々、内容を確認し、労働契約(=就業規則)を取り交わしていたら、企業活動は立ち行かなくなるというわけである。

 問題は、島崎さんの場合も起こりえたかもしれない、基本給の減額(ひいては退職金の減額)という、労働者に明らかな不利益を強いる就業規則の変更が許されるのか、ということだ。

コメント1

「NBO新書レビュー」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

短期保有者のいいようにさせたら、中長期で保有したいと考えている株主はどうなるのか。

貝沼 由久 ミネベアミツミ社長