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天皇制に仕掛けられた爆弾~『象徴天皇制と皇位継承』
笠原英彦著(評:栗原裕一郎)

ちくま新書、700円(税別)

  • 栗原 裕一郎

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2008年8月29日(金)

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評者の読了時間4時間00分

象徴天皇制と皇位継承

象徴天皇制と皇位継承』笠原英彦著、ちくま新書、700円(税別)

 このままでは皇位継承者がいなくなってしまうかもしれない──そうした危機意識のもと、2005年1月から有識者会議で検討されてきた皇室典範改正案は、2006年9月、秋篠宮家の紀子妃に男の子、悠仁親王が誕生したことで見送りとなった。

 目の前の局面が回避されたおかげで皇室存続をめぐる騒動は緊張感を失いすっかり下火になったけれど、根本的に解決されたわけではないのは子供でもわかるリクツで、遠からず(といってもたぶんけっこう遠いが)再燃するのはあきらかである。

 皇統が断絶の危機に瀕しているのは、戦後改正された皇室典範のせいだ。

 新典範は旧典範をおおよそ引き継いでおり、有識者会議で議論の焦点だった「男系男子の世襲」や「女帝の否定」なども明治の典範を踏襲したものなのだが、問題は、典範改正にあたり、天皇直系の秩父宮、高松宮、三笠宮以外の11の宮家が皇籍から離脱させられると同時に、側室制度(お妾さんですな)も廃止されたことにある。

 万世一系がフィクションでありイデオロギーであることに今日異を唱える人はあまりいないけれど(なかにはY染色体まで持ち出しトンデモも何のそので強弁する八木秀次のような人もいるが)、天皇家の系図が現在まで千数百年以上たどれることは事実だ。

 しかしそれは危ない橋を何度もわたることでかろうじて維持されてきたものであって、そういう綱渡りのためのバッファとして、側室や宮家という制度は機能してきたのである。大宅壮一は「万世一系」は「血のリレー」だとミもフタもなく喝破している(『実録・天皇記』だいわ文庫)。

 したがって、宮家を減らし側室を廃止すれば、皇統がいずれ淘汰されてしまうかもしれないことは考えてみれば自明であった。

 しかし、日本側の要人はこのリスクにどうやら気づいていなかったらしい。宮内庁内部ですら、皇位継承問題が取り沙汰されはじめたのはようやく1990年代に入ってからだという。

 本書の最大の眼目は、皇統断絶の危機はGHQによって意図的に仕込まれたものだった、という主張にある。

 〈マッカーサーが仕掛けた爆弾〉と著者は表現しているが、日本を占領統治するのに都合がよいからマッカーサーは天皇制を存続させたというのはいまや定説だけれど、用が済んだらお払い箱にすることまでマ元帥は計算ずくだったというのである。

〈当時の政府はGHQの意向を踏まえた皇室法体系の不備を余りに軽視していた。すなわち「マッカーサーの仕掛けた時限爆弾」に気づいた政府首脳は存在しなかったのである。日本の政府上層部は昭和天皇の存在を確保したことで安心してしまったのではないだろうか〉

女性天皇と女系天皇の違い、わかります?

 「皇統断絶=GHQの陰謀」説はほかにも唱えている人を見かけたことがあるが、文字どおり陰謀論の類だろうとばかり思っていた。

 著者の笠原英彦は日本政治史および日本行政史を専門とする慶大の教授であり、天皇制議論にかんしては左派も右派も幼稚すぎると切り捨て「イデオロギー・フリー」を標榜、万世一系も神話にすぎないと冷静な判断を下している。そういう人が断言するからには確固たる論拠がある、といいたいところだが、うーん、やっぱり弱いんじゃないかなあ。

 笠原はフェラーズ准将が米内光政に漏らしたという「十五年二十年さき日本に天皇制があろうがあるまいが、また天皇個人がどうなっておられようが関心は持たない」という発言に着目し、日本における共産主義革命を企図するソ連を牽制する目的もふくめ象徴天皇制は創出されたのだといい、〈重要なことは米ソ両国ともに、将来天皇制が消滅することを容認していたことである〉とする。

 この「容認」と皇室財産没収などの状況証拠から「仕掛け」という結論は導かれているのだが、受け身の「容認」と積極的な「仕掛け」ではずいぶん話が違うわけで、ちょっと飛躍している。

 GHQ側、日本側いずれも思慮が足りず、戦後60年を経てその破綻があらわになっているだけじゃないかという気がするのだが、いずれにせよ、このままでは皇統の断絶が必至であることは間違いない。面倒くさい議論を抜きにして結論にだけ着目すると、皇統を維持するために取りうる選択肢、典範改正案は四つほどしかない。

(1) 女性および女系天皇を認める
(2) 戦後離脱させた旧宮家を皇籍に戻す
(3) 養子を認める(ただし皇族の血を引く民間人にかぎる)
(4) 側室制度を復活する

 皇室典範をめぐる議論は、煎じ詰めれば「女系を認めるか否か」という争いに集約される。

 女性天皇と女系天皇の区別がいまひとつわからんという人がけっこう多いのでかんたんに説明しておこう。

※9月2日に記事を一部修正しました。ご指摘をありがとうございました:編集部

コメント7件コメント/レビュー

私は、男系だろうと女系だろうと興味はなく、皇室に税金を使うのはやめてほしいと思っているので、どうでもいいが、実にくだらないことについて議論しているというのは分かった。(2008/09/03)

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いただいたコメント

私は、男系だろうと女系だろうと興味はなく、皇室に税金を使うのはやめてほしいと思っているので、どうでもいいが、実にくだらないことについて議論しているというのは分かった。(2008/09/03)

女系という言葉自体がおかしいような気がする。初代からずーっと父方の系統で来たから、今までを振り返ると「男系」ということになるのであって、内親王が天皇になって婿を取ってその間に生まれた子供を天皇にすれば「女系」天皇になるというものでもないと思う。それが今のように百代以上続いた系統であるなら分かるけど。結局は、天皇の権威を少しでも落としてゆくゆくは廃止に追い込みたい人たちが作って流布している言葉なのかなと思う。(2008/09/01)

いわゆる政治的な思想とか抜きにして。ご先祖様が累々と苦労して、時には死人まで出しながらも守り受け継いできたものを「国民の総意」とかいう「その時の気分」でほいっと捨てちゃっていいのかなあと。捨てて良いって判断できるほどその価値を判ってるの?って疑問があって、ここで適当に捨ててしまって失ってしまうと、ご先祖様と子孫に顔向けできないような気がするんですが。それがちゃんと判らないうちは元のまま(GHQにいじくられる前の状態)で維持しながら考えていくべきなんじゃないかと思います。子孫に残せる財産であるって事だけは歴史が証明(実績が千数百年これでもかと山積み)してるので、気分で財産捨てるのはちょっと待てと。(2008/08/29)

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