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押井流「かっこいいオヤジ」論~『凡人として生きるということ』
押井守著(評:朝山実)

幻冬舎新書、760円(税別)

2008年9月1日(月)

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凡人として生きるということ

凡人として生きるということ』押井守著、幻冬舎新書、760円(税別)

 なぜ妻たちは、帰りの遅い夫に不機嫌になるのか。

 著者によれば、妻が怒るのは、浮気を疑ったりしているからでもセックスができない欲求不満からでもない。専業主婦であれば、社会との接点が夫しかないのが根底にあるという。

 いっぽう、男たちは明言化しえない妻の焦燥感を察することなく、外の空気をリビングに脱ぎ散らかしてしまう。夫が発散する「社会」のにおいが妻を疎外し、取り残された気持ちを味わいたくない妻は社会との関わりを求め、ボランティアや趣味の講座に通い始めることとなる。

 というふうに妻の隠された心理構造を説いてみせるあたりは、人生相談の回答者ふうだし、ナマっぽい感じに一瞬、著者が人気のアニメーション監督だということを忘れてしまいそうだ。

 原因がはっきりすれば、あとは対策だ。

 外で忙しく、社会的にも認められるようになっても、家に入るときには「ただのダメな男ですよ」と自分を切り替える。「監督」の顔を見せない気遣い。これも経験を積んだ「オヤジの術」だという。

 なるほど、むかしのお父さん方が、「ちょっと一杯」と仕事帰りに居酒屋に立ち寄ったのは、儀式というか、衣替えの知恵だったのかもしれない。

 前置きはこのぐらいにして、本論だ。本書は、若者に向けた人生哲学の本だが、自信を失いかけている中高年の男性も、読めば共感し、勇気づけられるところが多い。

〈若さに価値があるなどという言説は、実は巧妙に作られたウソである。もしも本当に若さそのものに価値を見出している者がいるとしたら、それは戦争を遂行中の国家ぐらいなものだろう〉

 のっけから、張り手だ。

 常識を疑え、と著者は語る。若さに価値などない。価値があるというのは、大人たちによるデマだ。

 なぜそんなデマが流布しているのか。それは、オシャレやファッションにお金を使わせるためである。そもそも大量にコピーされた服や靴を身にまとうのが個性やセンスの証明だと思いこんでいるあたりからして、大人の思うツボ。巧みにお金を巻き上げられているだけだ。

 そのことに早く気づけ! と若者を諭しながら、返す刀で

〈オヤジたちはそんな無駄なものに金を使わない。大量生産品を身にまとって発揮する個性など、本当の個性ではないことを知っているからだ〉

 と断言し、若ぶりたい中年男を、分別がない「未熟者」として、栄えある「オヤジたち」のなかから除外している。どうやら著者は、「ええー、見えませんよぉ」なんて囃し立てられて鼻の穴を広げている「ちょい不良」風情が大嫌いらしい。

「オヤジになって、人生はなんて楽なんだと思う」

 真にかっこいいオヤジになるための、押井流のオヤジ論。

 オヤジがかっこいいって?

 外見など一切問題ではない。着るものや髪型など、どうだっていい(著者近影の写真は、だらりとしたTシャツ姿だ)。オヤジには、年輪を重ねた知恵がある。ゆとりがある。

〈オヤジになるということは、融通無碍に生きる術を身につけ、精神において自由を得るということだ〉

〈オヤジになって、精神の自由を得た今、人生はなんて楽なんだろうと、しみじみ思う〉

〈あらゆるデマや様々なくびきから解放された時、人はこれほどまでに楽に生きることができるようになるのだと、しみじみ感じている〉

 得々とした文体をすこし変えれば、五木寛之だ。

 ゼニよりも「内面における自由」を重んじるのがオヤジだと弁舌されるうち、こんなワタシだが、ふにゃふにゃな半生を省み、オヤジ同盟の隊伍の末端に加えて頂こうか……。それくらいに、著者の説教にはコブシの力が入っている。

〈自由とは「生き方の幅」と、とらえ直してもいいかもしれない。人間、幅がある方が自由に決まっている〉

 ときに若さは、何ものにも縛られることのない自由を求めたがるものだが、他人との関わりを拒んだ生き方は、砂漠の真ん中で「オレは自由だ」と言い張るようなもの。そんなものは自由でもなんでもないという。

 家族や人間関係のしがらみなど「不自由」な制約があるからこそ、「自由」というものの価値がわかってくる。それを知っているのが、真のオヤジということになる。

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