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病気なので、休職して海外旅行に行きます~『「私はうつ」と言いたがる人たち』
香山リカ著(評:澁川祐子)

PHP新書、700円(税別)

  • 澁川 祐子

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2008年9月2日(火)

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評者の読了時間2時間15分

「私はうつ」と言いたがる人たち

「私はうつ」と言いたがる人たち』香山リカ著、PHP新書、700円(税別)

 うつ病で休職している職場の同僚が海外旅行に行っていると知ったらあなたはどう思うだろうか。しかも、あなたがその人の分まで仕事を背負っていたとしたら?

 私ならどうがんばってみても、心中穏やかではいられない気がする。「本人にしかわからないつらさがあるんだろう」と、その人についてあれこれ言うことは控えても、複雑な感情が湧き起こるのを止められないだろう。

 本書は、そんな“時と場合によって”うつを訴える人が昨今急増していることに着目した本だ。この手の、従来のうつ病とは症状を異にする新型のうつ病をテーマとした本は、『擬態うつ病』(林公一著、宝島新書)、『気まぐれ「うつ」病』(貝谷久宣著、ちくま新書)など、現役の精神科医による著作がこれまでにもいくつか出版されている。

 この本の著者・香山氏も、昨年『仕事中だけ《うつ病》になる人たち』(講談社)という類書を著している。同書が働き盛りの30代に「新しいタイプのうつ病」が増えていることを指摘し、その原因を「この世代特有の甘えと自己愛の強さ」であると世代論で片付けていたのに対し、本書では自ら「うつ」を語る人が急増する状況や背景、原因を幅広く社会全体の問題として捉えて論じている。

自分が「うつ」じゃないなんて……ショック!

 著者がうつ病を取り巻く状況の変化に気づいたのは、診察に訪れた人がうつ病と診断されずにガッカリする場面が増えてきたことだった。

〈つい十年ほど前までは「うつ病だと思います」と伝えると、それだけで「私はもうおしまい、ってことなんですか?」と末期がんの告知を受けたかのようにショックを受ける人も少なくなかった〉

 ところが最近では、〈「うつ病ではありません」と言われてショックを受ける人さえいる〉。人々の受け止め方が180度転換したというのである。

 「うつ」を訴える人が増えた背景には、言うまでもなく「心の病」が世間一般に広く認知されたことが影響している。テレビや活字メディアでもたびたび特集され、自らの闘病経験を告白する著名人も増えた。なかでも著者は、謹慎騒動のすえ精神科医の判断を仰いだ朝青龍や、ストレスによる体調悪化を訴え辞任に至った安部晋三前首相のケースに注目し、なんでも「心の問題」で語ろうとする風潮に疑問を投げかける。

 著者に言わせればこの二例は、本人が起こしたことの結果として、ストレス症状や体調の悪化が現われただけであり、「心の問題」がもとで不都合なことが起こったわけではない。なのに、病名がまるで印籠のように言い訳として通用してしまう。〈いま、うつ病は自分の置かれた不本意な状況や調子の悪さを自分で納得し、まわりに理解してもらうための“最適なひとこと”になりつつある〉というのだ。

 さらには、特に不本意な状況でなくても「うつ病」を自称したがる人がいると著者は指摘する。こうした人々の心理に、著者は自己承認欲求を見い出している。「私はうつ病」と言うことによって、「ただの人」から、まわりから注目される「個性的な私」へと変貌できるからだ。

 だが、「うつ病」をアイデンティティにしたがる人々は、決して自ら意識してうつ病を語っているわけではないと繰り返し著者は強調する。あくまで無意識下でそうした欲求が働いているところが、「私はうつ」と言いたがる人たちのやっかいなところなのだ。

 では、そもそもこれまで「うつ病」と呼ばれてきたものは、どんな病気なのだろうか。

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