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ある「悲劇の宰相」が呼び込んだ悲劇~『広田弘毅』
服部龍二著(評:山岡淳一郎)

中公新書、860円(税別)

  • 山岡 淳一郎

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2008年9月4日(木)

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広田弘毅──「悲劇の宰相」の実像

広田弘毅──「悲劇の宰相」の実像』服部龍二著、中公新書、860円(税別)

 東京裁判で、文官でただ一人死刑に処せられた広田弘毅は、戦争の責任を背負って粛々と死に臨んだ「悲劇の宰相」のイメージが強い。

 日露戦争後、東京帝国大学を卒業して外交官となった広田は、満州事変から日中戦争、太平洋戦争前夜の1930年代に外相、首相を務めた。高圧的な陸軍に対して日中提携による「協和外交」を唱え、1935年の帝国議会では「私の在任中に戦争は断じてないということを確信致して居ります」と外相答弁をしめくくっている。

 しかしながら、2・26事件以降は、陸軍に妥協し、高まる対中強硬論に押されて日本を戦争に導いた。広田の生涯は、ひと色では染めにくい。光の当て方次第でさまざまな像を結ぶ。

 にもかかわらず、同情論が多いのは、前述のように文官で唯一死刑宣告されたからだろう。本来なら、日中戦争開始時の首相だった近衛文麿や国際連盟脱退を宣言した元外相の松岡洋右も、その責めを負うはずだったが、近衛は服毒自殺、松岡は収監先の巣鴨プリズンで結核を悪化させて死亡。軍人だけでなく、文官も死刑台に立たせたい連合国側の検察官は、広田にターゲットを絞った。

 広田は、取調べには応じたものの罪状認否で「無罪」と一言発したのみで、2年半の東京裁判中、一切証言をしなかった。その潔さが悲劇性を際立たせるのだ。

 城山三郎が1974年に著した『落日燃ゆ』は、「自ら計らわない」広田の悲劇的な一生を家族とのつながりを含めて描いた名著として知られる。この小説で、城山は広田の人物像を、たとえばこう表す。

「広田は、平凡な背広が身についた男であった。軍服も、モーニングも、大礼服も、タキシードも似合わなかった。広田もまた、着るのをきらった」

 同小説の終章で広田が刑場に入ってゆくシーンは、圧巻だ。涙なくしては読めない。だが、城山が広田の内面に想像の翼を拡げ、美しくも哀しい物語を紡ぐほど、そこから抜け落ちるものもある。それは外交官、政治家という「公人」広田が担った史実の検証である。

欧米派から日中提携論へ

 本書は、「悲劇の宰相」の実像に迫った歴史ノンフィクション。(好きであれ、嫌いであれ)大礼服に身を包んだ広田の行為を再検証した著作だ。わたしは、本書を「アジア主義とは何か?」と自問しながら、読んだ。

 著者は、まず広田が玄洋社というアジア主義を標榜した国家主義的団体と深くかかわっていたことを指摘する。『落日燃ゆ』は「広田は玄洋社の正式メンバーではない」と記すが、じつは東京裁判の取調べ中に広田自身が「社員」だったことを認めている。広田は、その創始者・頭山満の葬儀委員長も務めた。玄洋社とは浅からぬ縁で結ばれていた。この事実を著者はサラリと書いている。広田を知るうえで少し補足しておきたい。

 玄洋社とは旧福岡藩士が1881年に創設した政治結社だ。当初、民権論を採っていたが、「有色人種として欧米人に対抗するには軍国の設備が必要」と国権主義に転向。そして欧米列強の侵略に抵抗するため、アジア諸民族は日本を盟主として団結せよ、との「大アジア主義」を掲げ、中国の孫文、李氏朝鮮の金玉均らを支援した。しかし、アジア主義は中国との提携を訴える一方で日清、日露の大陸進攻の口実にも使われた。玄洋社の関係者は、大陸に渡って情報を取り、さまざまな戦闘に加わった。そもそも「連帯」と「侵略」を現在進行形の具体的状況で区別するのは容易ではない。

 そのような思想の洗礼を受けた広田は、清、イギリス、アメリカ、オランダ、ソ連などへの駐在を経て、外相のポストに就いた。維新以後、日本の外交政策は、対英米協調が基軸だった。「脱亜入欧」を支持する外務省主流派は、英米の機嫌を損なわぬよう協調しつつ、ロシアの南下を抑えて大陸進出する方策を練った。英米の反感を買うアジア主義には、見向きもしなかった。外交官時代の広田も基本的には欧米派であった。が、外相就任後は、日中提携論へと傾く。

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