• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

アスリートとあなたをつなぐ「身体の感覚」~『時速250kmのシャトルが見える』
佐々木正人著(評:清田隆之)

光文社新書、740円(税別)

  • 清田 隆之

バックナンバー

2008年9月8日(月)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

評者の読了時間2時間30分

時速250kmのシャトルが見える──トップアスリート16人の身体論

時速250kmのシャトルが見える──トップアスリート16人の身体論』 佐々木正人著、光文社新書、740円(税別)

 北島康介が世界新記録で金メダルを獲得し、男子体操界に“野菜嫌い”のニューヒーロー・内村航平が彗星の如く登場。女子ソフトボールがアメリカにリベンジを果たして優勝し、期待されていた室伏広治はいつの間にか5位で競技を終えていた(と思ったら繰り上げで銅メダル獲得か?)。

 そんな記憶もすでに過去のものになりつつあるが……それはさておき、本書はその北京五輪にも参加した「オグシオ」の潮田玲子やレスリングの吉田沙保里など、トップアスリート16人による「身体論」をめぐるインタビュー集だ。

 「身体論」といわれてもあまりピンとはこないかもしれないが、要するに、競技のさなかに選手は何を感じ、その体には一体何が起こっているのか、といった視点でスポーツを考察したものだ。

 例えば、陸上の朝原宣治は100mを正確に47歩で刻みながら走っているとか、元F1ドライバーの鈴木亜久里は時速300kmで走行していても観客の顔をしっかり識別しているとか。これだけ聞くと、ちょっとマニアックなスポーツインタビュー集に思えてしまうかもしれない。

 しかし、本書のユニークな点は、「アフォーダンス」という生態心理学の理論を下敷きにしていることだ。これは、「与える、提供する」を意味する英語の動詞「アフォード(afford)」を語源にした造語で、「環境が動物に提供する価値や意味」を指す。インタビュアーを務めている著者の佐々木正人は、日本におけるアフォーダンス研究の第一人者だ。

スピンのあるなしは音で見分ける

 「地面」という環境は、動物に「立つ」「歩く」といった行為をアフォードする。また、「水」という環境は「飲む」ことや「入る」ことをアフォードするが、「歩く」ことはアフォードしない。これがアフォーダンスの基本的な考え方。つまり、我々はあらかじめ環境に埋め込まれた情報を利用しながら行動している、というわけだ。

 トップアスリートは、この「情報」と自身の身体を上手く連絡させながら競技を行っている。陸上選手にしか語れない地面があるだろうし、水泳選手にしか語れない水もあるだろう。要するに、本書が説いているのは、〈徹底的に洗練されたアスリートの身体の動きを通して周囲の感じを探っていく方法〉なのだ。

 先述の潮田玲子は、バドミントンのダブルスのコートを20分割して認識しているという。縦13.4m×横6.1mのコートを6分割し、さらに足下から腰、腰から肩、肩より上と、高さも3分割、それに相手コートの2人の身体を加えた20ブロックだ。

 バドミントンのシャトルは、初速で時速約250kmもの速度が出る。だが、対戦相手の手元に届くまで、およそ0.3秒の間に約50kmに減速しているという。この落差に加え、球種は微妙な違いのものも含めて約100種類。これらに対応しつつレシーブするのだから、それだけで潮田が単なるアイドル選手じゃないことがうかがい知れるだろう。

 とはいえ、反射神経など肉体的な反応のみでシャトルを打ち返すことは無理だという。そこで利用するのが20ブロックに分けた空間だ。相手の打ち方を見て、シャトルの軌道を確認し、通過したブロックによって落ちる場所やアウトかどうかを判断している。苦手なブロックもあるようで(弱点を晒すようなものだから本書ではオフレコだが)、そこだけ空間が“重く”感じられるのだとか。これは、身体感覚がコート上の空間全体に延長されている証拠だろう。

 また、卓球の松下浩二は、卓球選手特有の並はずれた動体視力に加え、聴覚などもフル稼働させて相手の打った球を見極めているという。

〈スピンがないのはポコッ、ポンという感じですかね。スピンがあるのはチュルとかシュッです。ボールがラケットにフラットに当たるときは、パコッという音がするんですよ。ドライブを打っているときはそれほど音はしません。相手の音も同じように聞こえます〉

コメント0

「NBO新書レビュー」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

日本全体として若い世代にもっと所得の分配をしていくべきだと思う。

川野 幸夫 ヤオコー 会長