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アメリカ・ローリング・トゥエンティのさなかに

『マーティン・ドレスラーの夢』 スティーブン・ミルハウザー著 柴田元幸訳 白水社刊 2000円(税抜き)

  • 松島 駿二郎

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2008年9月12日(金)

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『マーティン・ドレスラーの夢』 スティーブン・ミルハウザー著

『マーティン・ドレスラーの夢』 スティーブン・ミルハウザー著

 マンハッタンのしがない葉巻商人の父を持ったマーティン・ドレスラーは、高層建築の夢の時代に育った。高層ビル化の波は、マンハッタンとブルックリンを結ぶ巨大な橋の架橋から始まったといえるだろう。完成は1883年のことで、世界最長の吊り橋であり、橋を支える2脚の頭の高さは84メートルあり、当時世界最高の建築物でもあった。

 ブルックリンブリッジ完成後、マンハッタンのダウンタウンでは、ビルの高層化が進む。

 マーティン少年は葉巻屋からキャリアをスタートさせた。そして、最初に取り組んだのが葉巻の展示法の工夫だった。マンハッタンのダウンタウンの散歩の途中で通りすがりの店のショウウインドーをつぶさに研究して、父親の葉巻屋のディスプレーを変更した。店の前には大型のインディアンが葉巻を吸っている木像を飾った。そんな工夫が実って父の店は繁盛し始めた。

 余裕ができたところで、マーティンは葉巻屋の出店を考えた。いろいろな人が出入りし、いろいろな人の目に付く場所ということで選んだのがホテルのロビーへの出店だった。多様な人間(金持ちから貧乏人まで)が出入りするホテルのロビーの店として、安物から超高級品までの品揃えを大切にした。

 ホテルに出入りするうち、エレベーターボーイの1人と仲良くなった。蒸気機関で動く最新式のエレベーターに客を誘導し、部屋まで送り届ける仕事だ。半分客室係、半分ポーターという、ホテルでは最下部に属する仕事だった。

 マーティンは友人の退職と同時に入れ替わりにエレベーターボーイとして雇われた。ホテルという職場はマーティンを完全に魅了した。マーティンは目先のことだけではなく、仕事場を大きなシステムを考える性行があった。ホテルというシステムは、1つの町として機能していることにいち早く気がついた。そしてそれ故にマーティンはホテルの魅力のとりこになったのだった。

 単に客を宿泊させるだけではない。そこには旅人にとって、自分の寝室にはない魅力がなくてはならない。一介のエレベーターボーイがそんな考えを持っていることに目を付けた支配人がマーティンを支配人秘書に抜擢した。異例の昇進だった。マーティンはそこで、ホテルの表と裏をすべて学び取って、ますますホテルという存在に打ち込むようになり、彼自身の心の中に、巨大なシステムとしてのホテルを築き上げていった。

 同時に資金への気配りも忘れなかった。古いビルを改装して、気軽に立ち寄れるランチパーラーを造った。このときは通勤電車の吊り広告を大いに利用した。外を流れる風景に退屈した通勤客の目を惹きつけるような華やかなデザインで、ランチパーラーはたちまち評判になった。

 マーティン・ドレスラーが、夢の中のホテルを完成させたのは、1899年8月31日だった。ホテルは、ザ・ドレスラーと名付けられた。マンハッタンの「ダウンタウンにある、田園」というのがザ・ドレスラーの謳い文句だった。

 一歩中にはいると、町の喧噪から完全に遮断された静寂がある。高さ28階しかなかったが、(当時としては飛び抜けた)高層部分を別にして、地下に伸びた3階こそが、ザ・ドレスラーの売り物だった。ホテルは高級階層ではなく中流階層向けだと宣伝された。マーティンの戦略の巧みなところだった。19世紀末のニューヨークでは中流階層が大きなうねりのように興隆してきていることをマーティンは見逃さなかった。

 そして、ザ・ドレスラーの成功は、マーティンをニュー・ドレスラーへと導いていった。1902年ニュー・ドレスラーはオープンした。マーティンは30歳になっていた。24階建て、地下は7層あった。広告は「ホテル以上のもの、生き方そのもの」と謳った。それは、マーティン・ドレスラーの夢を体現したものだった。

 本書は、マーティン・ドレスラーの成功物語というだけではない。19世紀末から20世紀初頭にかけてのニューヨーク・マンハッタンに漲っていたエネルギーや、新しい技術の胎動を真っ直ぐに伝えてくれる。アメリカン・ドリームとはどのようなものだったかを分からせてくれる。栄光があるだけで挫折はない、そんなまれな時代の様相を、マーティンという若者を通じて伝えてくれる。

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