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俺に言わせれば、と言っちゃう前に『自伝の人間学』
~“経営の神様”だって一刀両断!

2008年9月17日(水)

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自伝の人間学

自伝の人間学』保坂正康著、新潮文庫、514円(税抜き)

 巻末の原武史氏との対談で、著者は『高橋是清自伝』にふれ、こんなエピソードを語っている。

 若いときに渡米した高橋是清は、騙されて牧場に売り飛ばされた。自分が奴隷だと思っていなかった彼は、何かとトラブルを起こし、牧場主に殴られた。その殴られた拍子に「思わず屁が出た」のが恥かしくて、言いたいことを言い返せなかったと高橋は自伝に書いている。そして、著者は断言する。

〈これが書けるかどうかが、自伝を書く条件、資格じゃないかと私は考えているんです〉

 本書は、自分史ブームを解読したものだ。とりあげられている本の数はあまりにも膨大で、芸能人からスポーツ選手、企業家、テロリスト、宗教者、無名者まで、あらゆるジャンルに及んでいる。はたして〈人はなぜ自伝を書くのか。いやなぜ書きたがるのか〉

つまらない自伝の共通点

 面白い自伝は様々だが、つまらない自伝には共通したものがあるという。「他人の自伝を読まない」のがそのひとつだ。

 読まないから、だれもが考えることを大層に、これは自分にしか書けないものだと思い込んでしまっている。しかも、

〈彼らの自伝では、自分以外は“人間”ではない。自分だけが血もあり、涙もある人間で、あとはすべてロボットか人形として描かれているのだ〉

 自分以外の人間は「ジブン劇場」の端役として扱われるのは、社会的に尊敬される肩書きをもった人ほど顕著となる。

 一例が、元教職者たちによるものだ。「鬼畜米英」と教え子を戦争に送った教師が、戦後民主主義者となった、「昭和二十年八月十五日」について語る。一時流行ったこうした自分史を、著者はこう言い捨てている。

〈告白ごっこというのは、それ自体楽しい。当事者にはカタルシスがある。それを“進歩的”などという便法で許容していたこの社会は、何のことはない、告白ごっこの片棒をかつがされたにすぎないのだ〉

 重々しく「回心」を語ってみせてはいるが、崇拝の対象を天皇からマッカーサーに挿げ替えただけではないか。流れに靡いたことに無自覚である懺悔者は、同じことを繰り返すにちがいないというわけだ。

 著者は、自伝を書くにあたって必要なのは「自省」であるという。内省のないものは、おっちょこちょいか、ただの自慢話、傲慢に陥る。

 読むに値しないもの、不快きわまりないものまで、コレクターをこえ、研究者のようにして読んできただけに著者の論調は手厳しい。

 「経営の神様」松下幸之助をさして、一企業を超え国について語った演説は、社会主義国の工場長のようだと喝破。川上哲治は根性論のファシストたりえたからこそ、巨人のV9が可能だったなど、核心をつく論調は痛快で心地よい。異論反論はあるにせよだ。

なぜ女性の自分史は面白いのか

 男の自伝の多くが自分の功績を並べたがるのに対して、女性の自分史には「面白くてためになる」掘り出し物がある。

 なぜ、面白いのか。どこが惹きつけるのか。

〈たぶん原稿用紙に向かったときには、自らを飾ろう、高邁に語ろう、という計算があるのだろうが、書き進めていくうちに感情が抑えられなくなるらしい。記憶を検証しているうちに、怒りや怨みが異常なスピードで湧いてくるのであろう〉

 高ぶる感情のまま、大人の配慮を吹き飛ばし、書いてしまう。「単なる記録」を超えた劇薬が感動を読者に与えるのだ。

 一例に、金子ふみ子の『何が私をかうさせたか』を挙げている。関東大震災直後に天皇暗殺の謀議で逮捕され、24歳で縊死した社会主義者の自伝である。

 思想に殉じたうら若き女性の自伝を、正座して拝読しようとするのは大間違いだという。

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