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ヤバイぞ、この「中間報告」~『アフリカ・レポート』
松本仁一著(評:後藤次美)【奨】

岩波新書、700円(税別)

  • 後藤 次美

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2008年9月26日(金)

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評者の読了時間3時間25分

アフリカ・レポート──壊れる国、生きる人々

アフリカ・レポート──壊れる国、生きる人々』松本仁一著、岩波新書、700円(税別)

 たとえば、グーグルの窓に「ジンバブエ ニュース」や「ジンバブエ インフレ」と入れてみる。すると、現在のジンバブエが未曽有のハイパーインフレに襲われていることを伝える記事やブログの数々がたちどころにヒットするだろう。

 ものの5分や10分調べれば、ジンバブエの年間インフレ率が、今年の5月には220万%、6月には1000万%を超える異常な数値に達していることや、そのために「1000億ジンバブエ・ドル札」が発行されているなんてこともわかるに違いない。

 いや、そんな興味本位の事実よりも、経済崩壊に至る歴史的な背景を知りたいという向きにも、ウィキペディアがその経緯をコンパクトに解説してくれている。1時間もネットとにらめっこをしていれば、ちょっとしたジンバブエ博士のできあがりだ。

 でも、「検索」だけでは知りえないこともある。

 本書は、朝日新聞の記者として30年近くにわたってアフリカを取材し続けてきた松本仁一氏が、アフリカに関する「中間レポート」のつもりで執筆したものだという。取り上げられている国の数は10カ国程度だが、フォーカスを絞ったぶん、崩壊の危機に瀕した国々に生きる人々の姿や息遣いを通じて、「アフリカの現在」を描き出すことに成功している。

 たとえば、先のジンバブエの物語を描くために、著者は、高圧電流の流れる鉄条網をかいくぐり、「ワニがうじゃうじゃいる」リンポポ川を渡って、隣国南アフリカ共和国に不法越境した男性、ブライトに取材する。

 彼の稼ぎは、かつては1カ月働いて卵2ダース分だった。このギリギリの暮らしに追い打ちをかけたのは、2007年6月26日に、ムガベ大統領によって打ち出された「価格半減令」だ。

〈二六日、ムガベ大統領が突然、「あらゆる商品の価格を半額にせよ」と声明を出した。現在のインフレは暴利をむさぼる悪徳商人がいるためであり、そうした行為を許さない、すべての価格を半分にしてインフレを止めるのだ、と大統領はいった〉

 ムガベは小学生か……。とつぶやきたくなるくらい、頭の悪い声明だが、もちろんギャグではない。

 この声明のせいで、商品は闇市場に回り、物価は暴騰した。そりゃそうだろう。値段を半額にしろ、と突然規制されたら、商売はあがったりだ。私だって闇で売る(気がする)。

崩壊した国々を歩きながら口をつく問いかけ

 ブライトの収入も、いきなり月に卵1ダース分になってしまった。「このままでは家族を死なせてしまう」。取るべき選択肢は、南アフリカへの不法越境しかなかった。

 彼のように、暮らしに困ってジンバブエから国外へ脱出した人の数は、ジンバブエ総人口のほぼ四分の一にあたるという。

 国内も無茶苦茶なことになっている。スーパーには肉も小麦粉もなければ、せっけんやトイレットペーパーもない。〈バス会社は燃料代が出なくなり、運行を十分の一に減らしてしまった〉

 ジンバブエの首都ハラレの観光会社に勤める人物は次のように語っている。

「首都のオフィスはどこも遅刻が当然になってしまった。スーパーにパンが出たと聞けば、勤務中でも仕事を放りだして行列に並ぶ。社会モラルはメチャクチャだ。原価も考えずに物価を半分にすれば何が起きるか、大統領は考えもしなかったのだろうか」

 読み進めるほどに、ジンバブエの尋常ならざる壊れっぷりがじりじりと伝わってくる。しかし、壊れているのはジンバブエだけではない。

 アパルトヘイトから解放された南アフリカ共和国では、新政権の樹立時から、治安システムが崩壊していた。解放直後の94年、最高時速240km/hという特別仕様のパトカーに同乗した著者は、重さ2キロの防弾チョッキを着せられた。

 午後7時すぎから巡回スタート。わずか2時間のうちに、銃撃事件が立て続けに起こり、3体の黒人の死体を著者は目の当たりにしている。深夜0時すぎには、「警官が撃たれた」という連絡が入ったが、当の警官は防弾チョッキを着けていたため、胸部打撃だけですんだのだという。

 7年後の2001年に著者は再び南アを訪れている。治安の改善はほとんど見られなかった。それもそのはずで、南アの警察官の給料は、地方公務員より2割も低い。

〈危険で低賃金とあって、やめていくものが多い。九四年には一〇万人いた警官が、〇一年には八万九〇〇〇人に減った。それでも政府の動きはない〉

 捜査能力は低下し、起訴率も落ちていく。民間調査機関の調べによれば、2001年の殺人事件の起訴率は25%、強姦18%、強盗4%、カージャック3%。南アはさながら犯罪天国と化しているようだ。

 崩壊したアフリカの国々を歩きながら、著者は次のように問いかけている。

〈アフリカの解放闘争には、人民を植民地の圧政から解放するという理念があったはずだ。その指導者がなぜ腐敗するのだろう〉

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