「アニメから見る時代の欲望」

アニメから見る時代の欲望

2008年9月26日(金)

私は“いらない”人間。だから勝負できる

谷口悟朗監督「コードギアス 反逆のルルーシュR2」(6)

1/3ページ

印刷ページ

前回から読む)

谷口悟朗氏

谷口悟朗(たにぐち ごろう)
1966年生まれ、愛知県出身。フリーのアニメーション監督、演出、プロデューサー。代表作は「無限のリヴァイアス」(1999年)、「プラネテス」(2003年。この作品で星雲賞を受賞)、「ガン×ソード」(2005年)などがある。深夜枠の番組ながら大人気となった「コードギアス 反逆のルルーシュ」(2006年)で注目を集め、続編の「コードギアス 反逆のルルーシュR2」が日曜夕方5時からMBS、TBS系列で放映中(2008年8月現在) (写真:鈴木 愛子 以下同)

谷口: 記憶に残っているんですけど、「パソコン通信」といわれるネット掲示板が出てきてから、スタッフの中にも、お客さんの声を気にし始める人が増えたんです。その後、ネットが普及して「2ちゃんねる」が誕生したりして、ますますその傾向が顕著になってきた。

 それまではお客さんの声を聞く機会は限られていました。スタッフとして少しでも知りたい、という気持ちも理解できます。それに、人は誰しも嫌われたくはないんですよ、やっぱり。しかし、ネットの声を気にしすぎて、本来やろうとしていたことを止めてしまう作り手も結構いるんです。

 実はネットの声というのは、ごくごく一握りでしかないんですけどね。

―― 「たとえ一部の客であっても、お客さんに嫌われてはいけない」。これは、制作者の心理面だけでなく、状況面でもあるのでしょうか。特にアニメは、TVという大変広い層に向けた媒体から発信しているので、「嫌われるのは御法度」という考え方もあるかと思いますが……。

谷口: それはあると思います。アニメ制作の現場などでも、これをやったらお客に嫌われるのではないか、という話は出ます。やはり減点方式で作品を見る人たちは結構いますから。私だって怖い。

 でも、私の勝利条件(第3回)に照らし合わせれば、たとえ一部のお客さんに嫌われても、一定数以上、声を上げて作品を愛してくださる方が現れて、視聴率なりDVDのセールスなりに跳ね返ってくれば、作品の勝ちということになります。

10万人の敵がいても、100万人の味方がいれば圧勝できる

 昔、とある雑誌の編集さんが言っておられた言葉があって、「たとえ10万人敵がいようと、100万人の味方がいたらこっちの勝ちだ」と。これはとても理解しやすかったですね。まったくもってその通りだと。10万を取るか100万を取るか、発想の根底を学びました。

 そうしたときに必要なのは、「嫌われるかもしれないけれど、越えなければならない何か」になってくるんだと思うんですよ。あとはその腹づもりを持てるかどうか。ものすごく単純なところで言っちゃうと、嫌われる覚悟を持てるかどうかですべてが決まると思います。

―― 「9割のお客さんに支持されるために1割の客層を捨てても良しとする」。商売の理屈をシンプルに考えてみれば、至極まっとうな結論ということになりますよね。でも、普通はそれがなかなかできないから、たくさんの失敗が生まれるわけで……。この考え方を、「商品開発」などで企業が応用しようとしたら可能でしょうか。

谷口: うーん。そういった覚悟を、企業の中にいる人たちが誰でも持てるかとなると、私はちょっと懐疑的なんですね。企業の中で生きていかなければいけないわけだから、企業の基本方針とかにはなかなか逆らえないじゃないですか。言ってしまうと、私はフリーだからできるんですよ。

―― そうなんですか?

谷口: 制作会社、TV局、メーカーは、作品がだめだったら私を切れば済むんですね。責任を取らせることが簡単にできちゃいます。そして企業は残るんですよ。だから、私の方も迷いなく思い切った表現ができるんです。裏を返すと。企業が私を守ってくれるから戦えるのではなく、企業が私を切ることで生き残ると、作品を作るシステムは残るとわかっているから戦える。

 今、私はサンライズという会社で作品を作っていますが、サンライズの監督システムというのは、私は嫌いではないんですよ。この会社の監督基準は、メジャーリーガーの監督と同じ基準。

 つまり、何らかの成績を残せなかったらクビという。今までの貢献度とか一切関係なく(笑)。

それが嫌なら、勤め人になろう

―― 「今までの貢献度も関係なく」ですか? フリーだから切られるというところに、何か理不尽さを感じたりはしないのですか。

谷口: 嫌なら社員になれば良い。だから、これはこれでいいんです。だからこそ、サンライズという会社は、創業から今に至るまで、ずっとアニメーションのある部分のトップを走り続けていると思うんですよ。

 それはもう、ものすごくシビアですから。つまり何らかの営業成績を残せた、もしくは技術的なチャレンジとか、新しい何かを見せたとか、そうしたものがない限りは、どれだけその人が演出家時代に会社に貢献していても、すぱーん、すぱーんと切っていきますから(笑)。

サンライズ・山本氏: ……まあ、そういうふうに思われる所もありますが、各プロジェクトごとにプロデューサーが、ベター、ベストのスタッフィングを考えた結果だとも思います。(一度切っても)それ以降永遠にお願いしないというわけではないです。

谷口: まあ、今現在の話ということで(笑)。でも、これはわかりやすい、厳しい基準というのは、私は芸能の世界としてはいいことだと思っているんです。

 アニメだけじゃなく、漫画だってそうですよね。どれだけ昔、大ヒットした漫画があろうと、今現在の連載がだめだったら当然、打ち切られますよね。それと同じということですから。やっぱりその厳しさがどこかに常に残っているからこそ、場合によっては、ある層のお客さんをあきらめようという腹づもりにもなると。私自身が、スタッフに言わなきゃいけない仕事ですからね。監督として、「この層のお客さんはあきらめよう」と。

―― 大勢のスタッフに方針を伝えて、作品の舵取りをする監督としての責任があるのですね。お話をうかがっていると、まるで大きな船の船長さんみたいですね。お客さんとスタッフを乗せた。

谷口: ああ、私のイメージは逆なんですよ。

次ページ以降は「日経ビジネスオンライン会員」(無料)の方および「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみお読みいただけます。ご登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。








Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)


Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント11 件(コメントを読む)
トラックバック

著者プロフィール

渡辺由美子(わたなべ ゆみこ)

1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。男性と女性の意識の差を取材した記事も多い。著書に「ワタシの夫は理系クン」ほか。


このコラムについて

アニメから見る時代の欲望

アニメーションは、頭の中で望んだことを描き動かすもの。作り手の嗜好を忠実に映像化することができる。そして作り手は、視聴者の欲望をいかに捉えるかに常に腐心している。アニメにこそ、時代の欲望が見えるのではないか? そんな仮説を手に、日々アニメ制作に臨む監督たちにインタビューを申し込んでみた。

⇒ 記事一覧

ページトップへ日経ビジネスオンライントップページへ

記事を探す

  • 全文検索
  • コラム名で探す
  • 記事タイトルで探す

日経ビジネスからのご案内