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「協働設計」でつくる『小さな建築』
~「&」を信じて、願いをこめて

  • 澁川 祐子

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2008年10月1日(水)

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小さな建築

小さな建築』 富田玲子著、みすず書房、2200円(税抜き)

 象設計集団。この一風変わった名前の設計事務所が作る建物は、名前よりももっとへんてこだ。地形にそった不規則な曲線。屋根からもっさりと生い茂る緑。風が通り抜ける半屋外の空間。最近流行のシンプルモダンな建物が、きれいに区画整理された「メインストリート」だとしたら、象設計集団の作る建物は「路地裏」。曲がりくねった路地の角を曲がると、新たな風景が次々目に飛び込んでくる。そんな路地裏に潜むワクワク感に満ちた空間作りが得意だ。

 たとえば、埼玉県宮代町の笠原小学校。小学校の建物というと、長方形のコンクリートの箱が思い浮かぶ。だが象設計集団が設計した小学校は、学校全体を「小さな街」、教室を「すみか」としてとらえ、集落のような世界を形にしている。

 幾棟かの長屋が芝生の中庭を取り囲むように連なり、半屋外の外廊下を通じて建物と自然とが有機的につながる「裸足で過ごせる小学校」だ。二人でおしゃべりできる小屋や腰掛にもなる階段状の柱など、子どもたちが自由に過ごせる小さな空間があちこちに用意されている。柱にはいろはカルタの文句や動植物名、童謡などが平仮名で彫られ、ちょっとした「遊び」がたくさんある。生徒たちは〈こうした仕掛けを手がかりに、建物と対話しながら学校中を探検して、自分なりの遊びを楽しんで〉いるという。

 笠原小学校のほかにも、瓦敷きの道と水路がくねくね続く東京都世田谷区の「用賀プロムナード」、大きなデッキが街に開かれている特別養護老人ホーム「葛飾の家」、屋根やテラスにブーゲンビリアが絡まる沖縄県の名護市庁舎、太い柱が林立する温泉が目を引く兵庫県のかんなべ湯の森「ゆとろぎ」などなど。象設計集団が手がけてきた建物は、一つとして似たものがない。それは、その土地の歴史や個性、施主の思いを丁寧にすくいあげ、その土地にふさわしい建物を作ろうとしているからだろう。

メンバー全員で設計する!?

 前置きがずいぶん長くなってしまったが、本書はそんな象設計集団の創設メンバー、富田玲子氏がこれまでの生い立ちや仕事を振り返りながら、建築や街に込める思いを綴ったものだ。タイトルの「小さい建築」について、

〈寸法が小さい建築ということではありません。私たちが持って生まれた五感が、その中でのびのび働く建築、あるいは私たちの心身にフィットする建築、それとも人間が小さな点になってしまったような孤立感や不安感を感じさせない建築のことだと言えばいいのでしょうか〉

と語っている。物理的に大きいか小さいかが問題なのではない。風や光、緑などの自然、あるいはまわりにいる人々とのつながりが感じられる建物が「小さな建築」なのだ。

 人と自然、人と建物、自然と建物、そして人と人――それらが共存し、互いに影響しあい、月日を重ねていく。本書を読んでいる最中、ずっと頭のなかをめぐっていたのは「“ともにある”とはどういうことか」だった。それは、単に建築に関することだけではない。著者の仕事の進め方や仕事で出会った人々や家族との付き合い方、日々の暮らしにいたるまですべて、「ともにある」ことがキーワードになっているのだ。

 象設計集団では、メンバー全員が協働して設計する。その理由は〈どんな建築もいろいろな人が使うのだから、いろいろな人が一緒に設計することで、豊かな建築ができると信じてい〉るからだ。実際、〈自分と異なる考え方や感性の人が入ることによって、思考の構造が一度破壊され、自分では到達できないと思っていた領域にもうひとつジャンプする機会が与えられ〉、いい結果につながるという。

 とはいえ、個性の強い建築家が数人集まれば、さぞかし意見をまとめるのは大変なんじゃないだろうかと思うだろう。その過程を著者は、

〈違う案が出てくると「なにクソ!」って思って、また頑張ることもできます。まるでリングの上で、数人でボクシングをしているようなものですが、こうしたバトルを繰り返すうちに、全員が「これだ!」と思える地点に到達できるのです〉

と綴っている。やっぱり一筋縄でいくものではないのだが、そうして激しい議論を交わした先に辿り着く合意の瞬間が、協働設計の魅力なのだと語る。

 この協働設計というやり方には、著者が象設計集団を起ちあげる前に勤めていた建築家・吉阪隆正のU研究室という設計事務所の影響が大きい。

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