「働く」と言うとふつうだが、漢語で「労働」とこれを呼ぶならば、いきおい妙な重さが発生する
こういう話を聞いた。
── ここしばらく、チュニックにレギンスとか、デニムの上にユルいワンピースとか、とにかく体(とくにおなか)を圧迫しない着こなしの女子が多いじゃん。
言われてみればそうだ。大阪のおばちゃんが着てそうな「あっぱっぱ」みたいなのを、道行く女子がまとっている。
── ここからがマイ理論なんだけど、経済が停滞して、世情が不安に満ちている時代には、女子のファッションはおなかをユルくする方向に進む、というのはどうかな。
え、そうなの?
── バブルでイケイケな時代にはボディコンが流行ったよね。
まあ、そうですけと…。
── フランス革命前のロココ文化では、コルセットでウェストをぎゅっと締めたわけだし。
いきなり18世紀の話か、スケールがデカいな。
── 逆に中世ヨーロッパでは妊婦が美しいとされて、だから当時の絵なんか見ると、女の人はみんな、ハイウェストで裾がだらんとした、腹部を圧迫しない服を着てるでしょ? あの時代にはペストも流行ってタイヘンだったし……。
なるほど……っておい!! 途中まで本気で聞いて信じそうになったじゃないか。文章でノリツッコミさせるんじゃない。
かくのごとく、現在が歴史上のある時期に似ている、という考えかたがある。たとえば高度成長期の1960年代後半は、サイケなサブカルチャーが花開き、〈昭和元禄〉と呼ばれた。そして吉本隆明によれば、いまの時代は第二の敗戦期なのだそうだ。
「働く」と言うとふつうだが、漢語で「労働」とこれを呼ぶならば、いきおい妙な重さが発生する。今年話題だった小林多喜二の小説『蟹工船』(1929)の世界だ。
プロレタリア文学の代表作とされる『蟹工船』は、2008年に一般読者のあいだでとつぜんリヴァイヴァルし、たいへんなブームとなった。
吉本隆明は、
〈『戦後』が終わって『第二の敗戦期』が訪れた現代社会における現実のしんどさと前途への不安〉
こそが『蟹工船』ブームの要因であると述べて、大いに話題になったわけだ(「「蟹工船」と新貧困社会 これは「第二の敗戦」だ」「文藝春秋」2008年7月号)。
吉本のこの発言の続篇が、前回触れた「ユリイカ」2008年9月号の特集『太宰治/坂口安吾 無頼派たちの“戦後”』に載っている(「男とはマザー・シップと見つけたり あるいは存在を耐えるための軽さ」)。〈第二の敗戦〉説に興味のある人は必読だと思うが、この説を信じるかどうかは、あくまで自己責任でね。
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