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明治天皇のテーブルマナー、日本を救う~『歴史のかげにグルメあり』
黒岩比佐子著(評:澁川祐子)

文春新書、800円(税別)

  • 澁川 祐子

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2008年10月3日(金)

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歴史のかげにグルメあり

歴史のかげにグルメあり』 黒岩比佐子著、文春新書、800円(税別)

 食事をしながら話をするのと、食事をせずにただ話をするのとでは、食事をしながらのほうが会話が弾む、という説がある。

 食べ物を食べるには、当然口を開けなければならない。自然に口が開くために、言葉も出てきやすくなるという。確かに我が身を振り返ってみても、取材相手に美味しい料理をご馳走し、気分よく話をしてもらう、というのはよく使う手である。

 古今東西、人は料理を挟んで他人と向き合って食べ且つ話し、そして人間関係を築き上げてきた。政治やビジネスはもちろんのこと、恋愛や友人関係もしかり。そのことを実感させてくれるのが本書だ。

 著者は、『「食道楽」の人 村井弦斎』(岩波書店)でサントリー学芸賞を受賞したノンフィクションライター。古本好きとしても知られ、近代日本に生きた人物やその時代に起きた歴史的事件を膨大な資料をもとに読み解いていく著作が多い。

 本書は、幕末から明治という激動の時代において、歴史的事件の裏側でどのような料理が供されていたかを明らかにし、食の観点から歴史の一端をあぶりだそうという試みである。冒頭に、

〈食事は政治の手段であり、外交には饗応がつきものだ。(中略)近代日本を左右した大事件の交渉の、接待の、あるいは密談のテーブルの上には、どんな料理が並んでいたのか。その料理のメニューは何を物語り、テーブルの下では、権力者たちによるどんな腹の探り合いが行われたのか〉

 とある。料理ごときでなにを大げさな、と思うかもしれない。だが、ペリーの黒船来航の顛末を読むと、それもあながち大言壮語ではないなと思えてくる。

 1854年、日米和親条約の調印に先立って幕府がペリー一行をもてなした料理は、伝統的な形式にのっとった本膳料理だった。

〈最初に、祝儀の意味をこめたスルメや結び昆布などの縁起物が酒とともに供され、次に、山海の珍味を集めた酒饌料理。そして、メインはアワビや赤貝、豆腐の煮物などを含む本膳料理。最後に、カステラなどの菓子三品が出されている〉

 この饗応の値段は一人前三両、当時の大工の手間賃60人分に相当するそうだ。が、結果はといえば、ペリーはこの料理をあまりお気に召さなかったらしい。

日本側はペリーの接待に酔いしれた

 確かに結び昆布や刺身などを出されても、肉料理中心の食生活を送っているペリーにとってはなんらありがたくなかったのだろう。『ペルリ提督日本遠征記(三)』には「ほんの僅かしか満足させられない食慾を抱いたまゝ立ち去ったことを白状しなければならない」との記述があり、幕府の手厚いもてなしも悲しいかな、空回りだったことがうかがえる。

 逆にペリー側がこの饗応の返礼として、ポーハタン号に幕府の人間を招いた午餐では、パリ仕込みの料理人の手によって、〈牛や羊や鳥の肉、ハムや保存用に加工した魚、野菜、果物が惜しげもなく使われ(中略)料理のほかに、シャンパンやワインやリキュールも大量に用意された〉

 禁じられていたはずの肉料理に舌鼓を打ち、初めて口にするシャンパンやリキュールに酔いしれた日本人たち。くだんの『ペルリ提督日本遠征記(三)』には「テーブルの料理が魔法のように消えた」と書かれており、その理由が

〈日本人の流儀で、手をつけなかったものを土産として、懐紙に包んですべて持ち帰ってしまったからだった。しかも、委員たちはソースやシロップなどもおかまいなく、肉もシチューも砂糖漬けも一緒くたにして包んだらしい〉

 というのだから、「あちゃー」である。しかもすっかり酔っ払った彼らは、チョンマゲ、和服姿で、アメリカ士官と一緒になって飛んだり跳ねたり。なかにはペリーに抱きつく輩もいたそうで、まんまコメディ映画になりそうな一場面だったに違いない。

 日米両国のもてなし方と、そのもてなされた側の対応の落差をみていると、日本がアメリカに開国を強行されたのも無理はないと思えてくる。

 そして開国後、日本社会は急速に西洋化の道を歩んだ。たった数十年のうちに、諸外国への付き合い方が激変した様子を、今度は明治天皇のエピソードが教えてくれる。

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