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堤防を高くすると、決壊時の被害がひどくなる~『これからの防災・減災がわかる本』
河田惠昭著(評:山岡淳一郎)

岩波ジュニア新書、780円(税別)

  • 山岡 淳一郎

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2008年10月14日(火)

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これからの防災・減災がわかる本

これからの防災・減災がわかる本』 河田惠昭著、岩波ジュニア新書、780円(税別)

 今年は雨が多い。8月26日~31日にかけて東海・関東地方を中心に襲った集中豪雨は「平成20年8月末豪雨」と命名されている。床上・床下浸水は8500棟以上。1時間降水量が観測史上1位を更新した地点は、北海道夕張市、東京都八王子市、府中市、愛知県岡崎市、広島県福山市など21カ所にのぼる。

 あの豪雨で地盤が緩んだ直後、もしも大地震が起きていたら……と考えるとゾッとする。取り越し苦労だ、と笑わないでほしい。

 マグニチュード8クラス(阪神淡路大地震7.3、大正関東大地震7.9)の東海地震は、いつ発生してもおかしくない。今後30年以内の発生確率は87%だ。同じプレート境界地震の十勝沖地震は、同発生確率60%だった03年に起きている (文部科学省 地震調査研究推進本部「全国を概観した地震動予測値図」より)。

 地震、台風、大雨の襲来は、日本列島で暮らす人間が背負う「宿命」だ。われわれはどのように備え、万一、被災したらどう行動すればよいのか。

 本書は、京都大学防災研究所巨大災害研究センター長の著者が大災害の分析と対策、危機管理について分かりやすく記した好著。ジュニア向けの「です」「ます」調で書かれているが、おとなが読むべき内容が綴られている。

 本書が、いわゆる「防災の手引き」風のマニュアル本と違うのは、実証研究の厚みもさることながら、「減災」という概念を真正面から提示している点だろう。

「完璧」を求める発想がムダに官のメタボ化を生む

 減災とは「被害をゼロにはできないが、できるだけ少なくする」という考え方だ。これまでの防災策は、被害を防ぎ「ゼロにする」という発想が起点になっている。両者は似ているようでかなり違う。

 自己流に解釈すると、従来の「防災原理主義」は「被害ゼロ」という実現不可能な目標を掲げ、対症療法的に思いつくまま対策を講じてきた、ようにみえる。公共事業を仕切る官にとっては都合のいい考え方だった。

 災害や事故で被害が生じると、所轄官庁は「二度とあってはいけない」と表明し、法的な安全基準をもっともらしく引きあげる。が、たとえば戦後の混乱期につくられた建築関連法規は、その後の建築技術の高度化、建物の大規模化、社会機構の輻輳化などを想定しておらず、法基準を引き上げ、厳格化するばかりでは、かえって現実から乖離する。

 その最たる例が、耐震偽装事件後の「建築基準法」の改悪である。担当官は、耐震偽装は二度とあってはいけないと「建築確認」段階で厖大な書類の提出を建築士に義務づけ、二重チェックのしくみもつくった。ところが実態を無視した急旋回で、新築着工がストップ。しかも建物の安全が、この法律の厳格化では守れそうもないのである(詳しくはコチラ)。

 「被害ゼロ」「二度とあってはならない」といえば誰も逆らえない。「絶対善」である。ここを出発点とすれば、逆に何をやっても許される。「安全・安心」を追い求める現代社会の盲点がここにある。これを乗り越えるにはリスクを分散し、官民、それぞれが「責務を明確」にして、担う発想の転換が求められる。

 そこで「減災」だ。

 たとえば、洪水対策といえば「堤防を高くすること」が頭に浮かぶ。だが、堤防を高くすればするほど、決壊したら大量で高速の氾濫流が市街地に流れ込む。河川改修による川底の拡張も、上流域で行うと下流域の危険性が高まる。これらは「川から水を溢れさせないような防災対策」であり、「溢れた場合に、浸水被害を少なくする減災の立場からの対策」ではない。著者は、

〈万が一、市街地に氾濫が起ればお手上げというのが、わが国の現状です〉

 と警告し、こう続けている。

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