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会社という組織で安全に働くために~『どこまでやったらクビになるか』
大内伸哉著(評:荻野進介)

新潮新書、680円(税別)

  • 荻野 進介

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2008年10月15日(水)

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評者の読了時間1時間45分

 新司法試験制度がはじまって今年で3年目を迎えた。論文式試験には計8つの選択科目があるのだが、学生からの人気は、2位の倒産法、3位の知的財産法をおさえ、労働法がダントツだという。旧試験では一時、法律選択科目から外されたこともあったというのに、時代は変わるものだ。

 労働法人気の背景には、変転極まるニッポンの労働事情があるのではないか。

 非正規社員の比率が上昇し、とうの昔になくなったはずの「格差」や「貧困」といった言葉がメディアを賑わせている。一方の正社員も安泰ではない。終身雇用や年功序列といった甘い蜜はもはや吸えず、「名ばかり管理職」で過酷な長時間労働を余儀なくされ、なかには過労の末、死にいたる痛ましい人もいる。頼みの綱の労働組合も、組織率がつるべ落としのように低下し、労働者団結の砦とは到底いえない……。

 ここ10数年、こういった状況を加速させる方向へ、または阻止する方向へ、法律や諸制度が新設され、見直されてきた。現実社会との接点が多く、動きが頻繁な分野は勉強も楽しいはずだ。しかも、旧試験時と違い、一旦、社会に出て企業に勤務してから、改めて法科大学院に進んで試験を受ける人も多い。司法試験一筋、苦節何年という人と比べれば、労働法は馴染みの深い分野のはずである。

 さて、そんな労働法を、働く人向けにわかりやすく解説したのが本書である。

 最近刊行された新書としては、他に『人が壊れてゆく職場』(笹山尚人著、光文社新書)がある。同書が中小企業の正社員や、非正規社員に向けた「会社との闘い方指南書」だとすれば、本書の想定読者は、待遇面で恵まれた大・中堅企業クラスのサラリーマンやOLの人たち。タイトルが示すように、いわば勝ち組が、その地位を失わないための実践的入門書といったところだ。

 本書はテーマごとの講義形式になっている。架空のケースと著名な判例を適宜混ぜつつ、採用や定年といった人事上の問題からはじまり、残業代未払い、経費流用、労災といった仕事上のトラブルや、副業、社内不倫、通勤時の痴漢といった、勤め人の誰もが身につまされる問題を扱う。どこから読み始めてもよく、もっと詳しく知りたい向きに各講義の末尾に補講がつく(あえて注文をつけると、さらに学習したい人向けに、各判例の出典をつけておいて欲しかった)。

 思わず、にやりとしてしまったのが、セクハラを扱った項だ。

何の気なしに発した言葉が……

〈われら中年おやじ族にとって不安なのは、自分の言動がいつ女性側から「セクハラ」って言われてしまうか予測がつかないこと〉

 と、読者の目線まで著者が降りてきて、次の4つのうち、どれがセクハラになるか、畳みかける。

  1. 新年会の帰りに佐藤ゆかり似の社員と2人きりでバーに行き口説いた
  2. 退職者の送別会で、並み居る女性社員の前で、胸元のあいた服を着た杉本彩似の社員に「目のやり場に困っちゃうな」と言う
  3. 失恋で激ヤセしていた森三中大島似のぽっちゃり型の社員が元気になったので、「前のようにふっくらとして元気そうだね」と声をかけた
  4. 期間満了間近の、加藤あい似の派遣社員を夕食に誘い、「君さえよければ期間を延長してあげる」と持ちかけ、承諾した彼女と男女の関係になるが、結局、期間の延長は不可能で、泣きながら詰問される

 実は「セクシャルハラスメント」という言葉が条文にある法律はない、という意外な事実を著者は明らかにする。セクハラと呼ばれるものは、強制わいせつや傷害罪などの「犯罪」には該当しないが、女性に著しい不快感を与える行為、をいう。

 男女雇用機会均等法の施行に際して厚生労働省が作成したガイドラインによれば、セクハラは、性的な関係を強要し拒否すると不利益になるぞと脅かす「対価型セクハラ」と、性的な言動によって他の労働者の能力発揮に悪影響を及ぼす「環境型セクハラ」に分けられる。

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