前編では、団さんの長年の研究をもとに「細胞は生命の実体」との考えを明らかにしてもらった。そして、細胞の働きを検証する上で、階層性という考えが重要だとの指摘もうかがった。その視点で見えてきたのが「ハプロイド細胞」と「ディプロイド細胞」だ。見かけはほとんど同じだが、DNAのセット数が、それぞれ1セットと2セットで異なっており、また前者から後者が生まれたという階層性も持っている。
後編では、両者の機能の違いや、何が原因でハプロイド細胞がディプロイド細胞に変化したのかを詳細に語っていただく中で、生命の本質に迫りたい。
とかく事物を細分化していくことが科学的に正しい手法だとされているが、生命は、分子という“もの”のレベルに宿ることはなく、細胞という形をとったとき初めて胎動するという。
その細胞の振る舞いが、生きようとする思いを必然的に伴うレベルの芽生えでもあるのだとすると、細胞もまた意思を持つのだろうか。その意思は生きる中で様々に出会うストレスにどう立ち向かうのだろう。
後編では、細胞が地球上に生まれてから被ったストレスやそれにどう対抗したかを伺った。
−−前編では、階層性をキーワードに細胞についてお話いただきました。原核細胞が階層の上位に移動し、真核細胞が生まれたということでした。
生命が活動する上で、バクテリアのような原核細胞でも十分だったのが、なぜ真核細胞に進化したのでしょうか? そこにはどういった外圧的要因があったのでしょうか?
団:私は細胞にも“生きる動機”みたいなものや、“上昇志向”みたいなものがあると思っています。彼らの上昇志向は、「もっと上手に食べられる方法はないか」つまり、「もっと楽にくらせる方法はないか」です。
団まりな(だん・まりな) 1940年東京生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。大阪市立大学教授を経て、現在、「階層生物学研究ラボ」の責任者として研究を続けている。主な著書に『細胞の意思:<自発性の源>をみつめる』『動物の系統と個体発生』『生物の複雑さを読む:階層性の生物学』『生物のからだはどう複雑化したか』『性のお話をしましょう』など。
生物にとってもっとも大事なのは、生き続けることです。何しろ、生き続けなければ消滅してしまうのですから。とりあえず外からものを取り込んで、自分を大きくする。分裂して命をつなぐために貪欲に食べます。生命がすることといえばそれだけです。
かつて酸素は猛毒だった
原核細胞は最初、硫黄化合物などエネルギー効率の悪いものを食べていましたが、ある時、原核細胞の中に光合成を行い、廃棄物として酸素を放出するものが現れました。排出されたその酸素は、長い年月をかけて地球を充たしました。
酸素は、いまでは我々にとってなくてはならないものですが、当時の生物にとって猛毒です。酸素は化学反応の力が強く、何にでもくっついて性質を変えてしまいますが、特にDNAにくっついた場合は、遺伝情報を変えてしまいます。
この酸素という猛毒から身を守るため、原核細胞たちは作戦を立てました。細胞どうしで融合して体を大きくし、 DNAを奥深くに隠して侵入する酸素からの攻撃をタンパク質で受け止めるようにしたのです。
その後、酸素を利用してエネルギーを作り出すことのできる原核細胞のミトコンドリアを細胞内に取り込むなどして、ますます複雑化し、体を大きくしていきました。
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