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日食の島で「So What?」~『吐カ喇列島』
斎藤潤著(評:清野由美)

光文社新書、860円(税別)

2008年10月17日(金)

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※吐カ喇列島のカは正しくは「口偏に葛」です。ウェブ上で表記できない可能性があるため、カタカナの「カ」にて代用しています

評者の読了時間5時間00分

吐カ喇列島──絶海の島々の豊かな暮らし

吐カ喇列島──絶海の島々の豊かな暮らし』 斎藤潤著、光文社新書、860円(税別)

 男性陣3人と高速道路をドライブ中のこと。男Aが「あっ」と叫んでカメラを取り出し、目の前の風景を収め始めた。といったって前に広がるのは、何の変哲もないタダの道路と空。一体、何を撮っているのだろう。いぶかしがって聞いてみたら、果たして答えは「雲」なのであった。

 ははあ、雲。いや、それだってよく分からない。なぜに、雲?

「この時刻に湾岸の方であんな雲が出るのは、ここ数年のこと。だから、僕、最近、記録するようにしてるんですよ」

 男Aはうれしそうに言った。

 なるほど、なるほど。しかし彼は別に気象関係者でも、温暖化対策関係者でもない。で、なんで、撮るわけ? 

 さらに疑問を投げかけようとした時、傍らの男Bがすかさず言った。

「ソウ・ホワット? と聞いちゃダメですよ。だって、男の子って、そういうものなんですからね」

 前振りが長くなってすみません。が、なぜこの話をするかというと、この本の読中感が、まさにその、ソウ・ホワット満載だからだ。

 本書の内容はタイトル通り、日本の絶海に位置する吐カ喇(トカラ)列島をめぐる紀行文である。

 といって、吐カ喇の位置がすぐに分かる人は、日本の中でも少数派だろう。地図をひもといてみると、鹿児島県の南沖。屋久島と奄美大島の間に、このエキゾチックな名前の列島は並んでいる。行政区分でいうと、鹿児島県鹿児島郡十島村。しかし何といっても、初見では読むのも難しい「吐カ喇」の字と音が断然、魅力的だ。日本書紀(7世紀)には「吐火羅」の記載があるというが、それだけでも何だか旅のロマンはかきたてられるではないか。

何の役に立つか、それがなんでそんなに気になるの?

 しかし、その、知る人ぞ知る島通いを記す本書の文章は、あくまでも淡々としている。吐火羅から吐カ喇への歴史ミステリーを解き明かすでもなく(テレビ番組だったらやりそう)、かといって愛好者に向けた島旅のお役立ち情報でもない(ムックだったらありそう)。いってみれば、そこに山があるから登ります。そこに雲があるから撮ります。そこに島があるから行きます、そして、書きます、というスタンス。

 『知的生産のためのすごい! ○○術』『××に学ぶ「部下を本気にさせる」マネジメント』『親子でできる就職活動△△法』・・・・・・。術だの、法だの、力だの、とにかく、何かの役に立たねばならない、というタイトルが強迫観念的に目立つ新書界の中で、そのスタンスは異色。その異色ぶりに、思わず現世の住人はソウ・ホワット? と問いかけたくなるのだ。

 でも、読者として、この問いかけは、決してネガティブなものではない。読者に媚びず、売り上げに媚びず、書き手自身にすら媚びていない文章を追っていくうちに、読書にも旅にも本来必要な「無為の時間」というものを、この本はゆっくりと味あわせてくれる。そう、みんな、人生に意味を求めすぎだよ。あ、それは私ですが。

 吐カ喇列島は7つの有人島と、5つの無人島からなる。そのうち、口之島、中之島、臥蛇島(がじゃじま)、平島、諏訪之瀬島、悪石島、小宝島、宝島について本書では章を割いている。島の由来、人の住み方、産業、民宿の料理、温泉、と、描かれる光景はさまざまだ。

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「日食の島で「So What?」~『吐カ喇列島』
斎藤潤著(評:清野由美)」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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