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『検索バカ』 藤原智美著、朝日新書、740円(税別)
〈「空気を読め」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。みんなこれに刃向かえない。自分の意見をいう前に検索で空気を読む、自分で考える前に検索で他人の成果を拝借、ランキングを参照して行動、「みんないっしょ」の幻想に浸る。そうしているうちに思考力をなくしていく。いや「自分をなくしていく」でしょうか。一見、無関係にみえる「検索する日常」と「クウキ読みの日常」はつながっています〉
タイトルの「検索バカ」はいくぶん刺激的だが、ネット社会や利用者を揶揄するような本ではない。前著の『暴走老人!』同様、タイトルがひとり歩きしかねないおそれがあるものの、生身の現実で起きた事例をもとに、読者をひきこみ自問自答しようとするのが本書の姿勢だ。
著者の論旨は、「検索」が便利だからといって、「思索」をおろそかにしてはいけない。孤独な時間、ひとりで考えることは大切だと説くとともに、他人の顔色(=空気)ばかりうかがうことの怖さを示唆している。
著者の指摘からワタシが連想したのは、話はすこしずれるかもしれないが、ワープロを使い慣れるといつしか漢字が書けなくなっているといった事態だったりする。
たとえば、著者は学級委員だったときのこんな思い出を本のなかに記している。
給食の時間が騒がしいから静かにさせるよう、小学校の担任から指示された。子供のことだから口で言っても、効き目はない。
そこで著者は、黒板に「騒いだ人」の名前を書きつけることを思いつく。40年ちかく経つというのに、最初に記した男の子の姓を覚えているという。
黒板を見て、教室は静かになり、教師に褒められもした。著者は喜びを感じ、いっそう静かにさせるためのアイデアをひねり出していく。
禅宗の道場を思わせる空気が教室を覆い、すこしでも静謐を破る者があれば視線が集まる。異様なものになっていた。
「もう止めなさい!」
教師の一喝で、競争は終わりを告げたという。
何かあったら「とりあえずググってみる」
たわいない記憶といえないこともないが、見聞したり体験したりした日々の小事にこだわるのは、小説家である著者が選び取ってきた、コラムを書く際のスタンスだ。
目的は正しくとも、ひとつに空気がまとまり、純化することで、おかしな流れがうまれる。学校が舞台ということもあり、原武史の『滝山コミューン一九七四』に通じる居心地の悪さがある。
グーグルが日本に登場した2000年を境に、世の中は「検索の時代」を迎えたと著者はいう。
〈検索で現代の空気を読む、空気を読むために検索する。こうした流れがいまも加速している、と私は見ています〉
パソコンの操作ひとつで、世の中の人たちがどんな意見をもち、多数派はどっちかがわかってしまう。とかいいながら、距離を置いているかのように装ってみるワタシも、たしかに検索してしまっている。ついつい便利がゆえに、何も考えたりせずに。
先日も、コントのナンバーワンを決めるテレビ番組を観たあと、ネットで検索した。審査員の大半が、決勝に勝ち進んだコンビの後輩芸人というのが気にかかったし、案の定、公開投票での結果はクビをかしげるものだった。
マスメディアの速報は優勝コンビを賞賛していたが、いっぽうでコンビのブログが炎上したり、疑問を呈するコメントが少なくなく、おかしいと思ったのは自分ひとりじゃないとわかって、気分がほぐれた。で、すっかり思索するのをやめてしまった。
便利といえば、ホテルやグルメの利用者のクチコミ。具体的な感想は、宿や店を決めるうえで大きな力をもつ。本を買うにもそうだ。こうしてふだんなにげなく用いているわけだ。
著者の心配は、便利がゆえに、自分で迷いつつ、考えを深めるということをしなくなるのではないかということだ。
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