今回の「脳スペシャル」では、スタジオに来てくださった視聴者の方々からの質問に数多く答えさせていただいた。まさに1000本ノックのような楽しい時間だった。
脳の話というは、簡単に言葉にしていることの背後にものすごく難しいことが広がっている。例えば、「根拠のない自信を持つ」という一言にしても、では「自信とは何か」。それを科学的に定義するとどういうことなのか。根拠のある自信とは何か。その違いはどこにあるのか。突き詰めると難しい問題で、論文が何本も書けるほどのテーマだ。「創造的先延ばし(creative procrastination)」という概念についてもとても深いものである。
テレビではどうしても一見分かりやすく強い言葉で伝えるのだが、実は難しい。よくよく考えてみると、一生考え続けても分からないようなことがたくさんある。だから、単純に言い切っていることの背後に難しいことがあり、結果としての言葉は思考を停止するためのものではなく、それを基に考え抜いてほしい。そういうふうに見てくれたらよいと思う。
答が常にあると思うこと自体が間違いなのだと思う。
この「プロフェッショナル」の番組が始まったときから、脳科学者として何が言えるのかが、私にとっての課題だった。何についても一貫して科学的な根拠に基づいて言えることは非常に少ない。
例えば、外国語の習得は早い時期にするほうがよいのか、遅くから始めても大丈夫なのか。それぞれをサポートしたり示唆したりするエビデンス(根拠)はたくさんある。そうしてみると、結局「何も分からない」ということになってしまう。
そこから先は、ある種の哲学の問題になる。分からないけれど、仮説として哲学を立てるしかないのだ。仮説を一切持たないで生きることは誰もできない。現時点で科学的に分かっていることだけに基づいてなんて、誰も生きられない。
仮説を立てるということについても、脳科学をより広く深く知っているほうが、深い仮説を立てられる。だから、科学は無関係ではない。そういう意味で言うと、科学は必要だし科学的エビデンスは必要なのだけれど、それを「自分が生きる」という現場に、どう適用するかは、また別の問題である。
だからこそ「偶有性の海に飛び込め」ということなのだ。
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