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芸能人がかかりやすい『アーティスト症候群』
~八代亜紀から藤井フミヤまでメッタ斬り

2008年10月22日(水)

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アーティスト症候群――アートと職人、クリエイターと芸能人

アーティスト症候群――アートと職人、クリエイターと芸能人』 大野佐紀子著、明治書院、1500円(税抜き)

 写真家の蜷川実花が、初監督した映画「さくらん」について、インタビューに答えているのを例にとり、著者は、そんなわけはないとツッコミをいれている。

 撮影現場では、男の意見よりも女の直感を優先し、自由に女性の感性で撮った。女性客を集め、独創性が評判を呼んだ映画だが、際立った映像の赤色について、蜷川監督は「意識しているのではなく、自分が好きな色を使っただけ」とテレビで答えていた。インタビュアーはうなずきでもしたのだろうが、著者はこう綴っている。

〈自分が好きなだけ。意識はしていない。監督やっててそんなことなかろうが!〉

 映画には何億もの金が動いている。好きだからの一言で出資者を納得させられる甘い稼業ではないことぐらい、大人なら知っている。ソロバンを弾いたうえで、「自然体」であることを装い、強調しようとしたのが先の発言。感性を売りにするアート系女子のしたたかさに、どうしても一言いわずにはいらず、

〈「あれは視覚的インパクトを考えて、あえて過剰さを狙ったんです。ヨーロッパでは絶対受けると思っていました」なんて、舞台裏を親切に説明するのではなく、「私の好きなことやってただけよ」と言い放つ。あそこまで大胆なことをやっているのに、それが持って生まれた資質らしいというところがポイントである〉

そしてみんな「アーティスト」になった

 彼女に刺激を受け、「自然体」を真似る女子があとに続こうする。しかし、それがなんと罪作りなことか。おおがかりにみえるマジックも、タネを明かされるとなぁんだってなもの。不可解さがあるからこそ、観客は惹きつけられるわけで、作り手はそこのところを承知して、正直に答えたりはしないのがプロでもある。

 そのあたりの綱引きというか匙加減を承知しているのは、さすが蜷川幸雄の娘だけはある。しかし、「好きなことをやればいいんだ」というパフォーマンスを真に受け、背中を押された気になる人たちが世間にあふれているという。

 西武やパルコが元気だった80年代、得体はしれないものの最先端ふうな現代美術が商品となるのにあわせ、作家をこぞって「アーティスト」と呼ぶようになった。音楽の世界でも「J・POP」が標語となり、シンガーソングライターたちをアーティストに呼びあらわすこととなる。この頃を境に、モノ作りの人たち、業界裏方さんにいたるまで、なんでもアーティストと呼びはじめた。本書はまず、そんな時代の流れを、歴史のお勉強風に、ちょっとシニカルにおさらいしている。

〈今やアーティストと呼ばれないのは、人から曲を提供してもらうアイドルと演歌歌手だけとなった〉

 著者は、ミュージシャンがこぞってアーティストを名乗りだすようになって、起こるべくして起きたのが、ある人気アイドルの盗作騒動だという。

 まわりはみんなアーティストを名乗っているし、これくらいなら私でも作れるんじゃない。で、ちょっとやってみた。すると、なかなかいい感じにできた。業界の人からも、ちやほやされた。しかし、「自分流」の「自然体」に作ったつもりが、彼女の耳になじんだフレーズの寄せ集めだったというのが発覚して、騒ぎになった。というか、大人たちは安易なコピーに、誰一人気づかなかったのだろうか。そんなことがあるのだろうか。

 騒動の背景には、もしかしたら私にも「才能」があるのではという欲望や、「私の世界」を表現することは一段上だと思いこまされた刷り込みがある。こうしたアーティストになりたがる芸能人たちを取り上げ、本書ではナンシー関を思わせるノリで、演歌の八代亜紀から藤井フミヤまで次々と斬っている。

 たとえば、八代亜紀はなぜ〈パターン化された匿名的な絵〉を描き続けるのか。二科展の常連・工藤静香には、〈おじさんおばさんしか見に来ない二科展に出してなんかいないで、デコトラアーティストになったほうが儲かるし、人気も出ると思う〉とツッコミ。片岡鶴太郎にいたっては、〈彼ほど、絵描きになることによって、よくわからない「箔」をつけた芸能人は珍しい〉と大家然とした言動を拾い上げ、総じてアーティスト志向の芸能人はなぜかヤンキーが多いと片付ける。

 ナンシー関を知っている世代からすれば辛口な批評に新味があるわけではないが、本人はもとよりファンが読めば相当にムカツクだろう。

 芸能人といっても、昔のように他を圧倒するような芸をやっているわけでもない。たまたまアイドルの道が開け、人気が出たものの、年齢を重ねれば、こんなことでいいのか、不安になっても不思議はない。自分には、何もない。人気が陰りをみせたときに、ふいにおそってくるコンプレックスの裏返しが、アートに走らせるとの読みは納得がゆくものだ。

 しかし、なぜネコも杓子もアートなのか。

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