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モノが語る職人の物語~『手に職。』
森まゆみ著(評:澁川祐子)

ちくまプリマー新書、780円(税別)

  • 澁川 祐子

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2008年10月23日(木)

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評者の読了時間2時間00分

手に職。

手に職。』 森まゆみ著、ちくまプリマー新書、780円(税別)

 手仕事によって丁寧に作られたモノには、ひとつひとつ固有の物語がある。

 モノの背後には、技を守り受け継いできた歴史があり、それを作った職人の人生がある。たくさんの人の手を通して技が形を結び、いまここに存在している。

 そうした物語の数々を、東京とその近郊で拾い集めたのが本書だ。

 登場するのは三味線や江戸刺繍、切子ガラス、桐箪笥といった伝統工芸の王道から、おろし金や鋏などの日用品。鮨やそばなどの料理、さらには鳶や大工、手植ブラシや貴金属眼鏡枠といったふだん耳慣れないものまで。総勢20名の職人を取り上げている。

 著者は、「谷根千(やねせん)」の愛称で親しまれる地域雑誌「谷中・根津・千駄木」の編集人でもある作家・森まゆみ氏。彼女の問いかけによって、なぜ彼らがこの世界に入り、その後どうやって「手に職」をつけていったかが引き出されていく。

 たとえば江戸和竿の職人、中根喜三郎氏(千住)の場合。

 五世四代目竿忠である氏は昭和6年生まれ。初代の父親も竿屋であったため、五世を名乗っている。江戸時代から続く竿作りは長子相伝。喜三郎氏は三男で、家業を継ぐ気はまったくなかった。だが、東京の大空襲によって両親と二人の兄を一度に亡くしたことで人生が一変する。

教わるのではなく、モノを見て真似る

 父の顧客だった三遊亭金馬師匠が生き残った喜三郎氏とその妹を引き取り、喜三郎氏に竿屋になることを強く勧めた。19歳で押上の竿辰に遅い弟子入りをした喜三郎氏は、最初は竹の上下さえもわからなかったが、早く仕事を覚えたい一心で修業に打ち込んだ。その後「竹の子」という銘で独立。屋号「竿忠」を名乗ったのは、昭和49年、40代になってからだった。

 江戸和竿は天然の竹を継ぎ漆で仕上げた竿で、ハゼやキスなど江戸前の魚を釣るためのもの。竿忠の竿は、漆の塗りに特長があるという。

 親から直接教わったわけではないが、先代や先々代の作ったモノを見て学んだ。跡継ぎはいない。だが〈伝統技術というものはなくなることはありません。あたしだって父や祖父に教わりはしませんが、見て、ははァ……こうやるんだなって模倣しましたからね〉と語っていたのが人知れぬ努力を感じさせる。

 本書には、一人ひとりの年齢は明記されていないのだが、話の内容から察するにおそらくはほとんどが60歳以上、なかには80歳を超えている人もいる。彼らの経歴や仕事の内容は先述した通りそれぞれ異なる。語り口も、無口な職人タイプもいれば、気風のいい江戸っ子タイプもいる。だが通して読んでいくと、そこにいくつか共通点が立ち現われる。

 戦争というものが落とした影。師でもあった父親との関係や、跡を継ぐ者に特有のプレッシャー。作り手より仲介する人間のほうが利が大きいという流通の構造的問題。質のいい材料を入手することの難しさ。そして、後継者の問題。

 だが、特に似通っているのはその仕事に対する、どこまでも謙虚な姿勢だろう。

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