「茂木健一郎の「超一流の仕事脳」」

人生の偶然を必然に変える力

〜 人工心臓開発プロジェクトリーダー・野尻知里 〜

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2008年10月28日(火)

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 今回お話をうかがったのは人工心臓の開発を手掛けていらっしゃる野尻知里さん。人工心臓は血液という「生き物」を扱う難しさがある。単なる流体を送ればよいのではなく、うまくしないと血液が傷ついて、心臓のなかに血小板などの破片が残ってしまうという。その話をうかがうまで、血液が生き物だとは、あまり考えたことがなかった。

 野尻さんは人工心臓の開発過程において、幾多の障害を乗り越えてきた。壁が目の前に現れたときに、いったんは泣いてしまうこともあるけれど、それから猛然とファイトが涌いてきて障害物に向かっていくとおっしゃっていた。

 なぜ障害に向き合ってもそんなに元気で仕事が続けられるのかといえば、「好きなことをやっている」から。好きなものがあって、それが妨げられた時、あきらめるのではなく、その障害物を乗り越えることにこそ、一番のエネルギーを使う。そのことは非常にロジカルだし、多くの人はそこから逃げてしまうから、結局好きなことができずにエネルギーを失っていく。

 野尻さんは、しきりに「自分はラッキーだ」という。客観的に見ると、そんなにラッキーなことばかりに出合っているわけではないかもしれない。そこが非常に面白いと感じた。どんな人にも人生にいろいろな出合いがあり、さまざまな限定の中で生きている。その人生の限定を「ラッキー」と言い切る力というものがある。

 そういう人は、本当に“福の神”になる。人生の出来事はどういう見方もできる。ラッキーだと思って、それを生かすことができるし、逆にそうでないこともあったはずなのに、「どうして私はこうなってしまったのか」と不幸だと思って生きることもできる。

 どちらも1つの人生なのだが、何かを切り拓く力はあきらかに、自分が受けた制約を「ラッキーだ」と思うことによって生まれる。それが野尻さんの力になっているのだと感じた。

 人生の偶然を必然に変える力。まさにセレンディビティだ。「偶然の幸運」とよく言われるのだが、偶然の幸運に出合うとは、客観的に幸運・不運が決まっているのではなく、それを自分で幸運だと思うことなのだ。今回はセレンディビティについての理解が深まった。

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夢を恐れず、走り続けろ
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NHK総合テレビ
10月28日(火)
午後10:00〜10:43
再放送
 総合 毎翌週火曜 午前1:00〜1:44
     (月曜深夜)
 BS2 毎翌週水曜 午後5:15〜5:59
 これまでにない仕組みの補助人工心臓の開発を率い、世界の医療界から注目を集める日本人女性がいる。野尻知里(のじりちさと)(56歳)。去年、日本のメーカーとしては初めてヨーロッパで認可をうけ、去年8月から治療の現場で使われ始めている。

 日本人の死因の第2位を占める心臓疾患。心臓移植が必要となっても、簡単にはドナーが見つからない場合が多い。移植までの命をつなぐのが「人工心臓」だ。

 人工心臓の開発の歴史は、血栓との闘い。野尻たちは、磁石の力で羽根車を宙に浮かせる「磁気浮上揚技術」を応用し、全く新しい構造を持った人工心臓の開発に成功、血栓ができにくいと期待されている。

 かつて野尻は、心臓外科医として治療の最前線に立っていた。しかしもっと多くの命を救いたいと、人工心臓の開発に身を投じた。そして8年前、わずか4人でアメリカに渡り、新型人工心臓を作り上げた。

 そしてこの夏、野尻たちは世界一の心臓病大国・アメリカでの認可に向け動き出した。その第一号としてミシガン大学での臨床試験の承認が降りた。果たして無事、臨床試験をやり遂げることが出来るか。

 番組では、開発リーダーとしてチームを率い、アメリカでの初の臨床試験に挑む野尻の現場に密着、女性リーダーの流儀に迫る。


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著者プロフィール

茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)

茂木 健一郎

1962年、東京都生まれ。東京大学大学院卒業。「クオリア(感覚質)」を手がかりに、脳と心の謎に挑む新進気鋭の脳科学者。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。



このコラムについて

茂木健一郎の「超一流の仕事脳」

毎回、1つの分野で超一流の仕事をしている人物を追うNHKのテレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」。キャスターを務める脳科学者の茂木健一郎氏が、番組を通じてその人物から受けた刺激をさらに深く考察して語るコラム。

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