「タケダジャーナル」

裁判員制度は、世界に類を見ないモンスターになる

「会社をダメにする法令遵守」の郷原信郎氏に聞く(2)

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2008年11月5日(水)

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「平成21年5月21日から裁判員制度が実施されます。裁判員制度とは,国民のみなさんに裁判員として刑事裁判に参加してもらい,被告人が有罪かどうか,有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に決めてもらう制度です。国民のみなさんが刑事裁判に参加することにより,裁判が身近で分かりやすいものとなり,司法に対する国民のみなさんの信頼の向上につながることが期待されています」

 最高裁のホームページでは裁判員制度についてそう説明されている。あれよあれよというまに採用が決定され、実施も目前にせまっている裁判人制度は、独特の法システム社会である日本に果たしてなじむのだろうか。

*  *  *  *

郷原 まず国民の司法参加は、やった方がいいのか、やらなくてもいいのか、二分法なんですよ。そうしたら、やった方がいいということになる。なぜなら、外国の多くの国でやっているから。

武田 最高裁のHPでも「国民が裁判に参加する制度は,アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア等でも行われています」とありますよね。

弁護士 郷原 信郎氏

弁護士 郷原 信郎氏 (写真:陶山 勉、以下同)

郷原 やっていないのは日本だけだから、やった方がいいとなります。そこでまず、エンジンがかかるわけですね。じゃあ、どういうふうにやるのか。その制度設計には日弁連の上の方を占めている人権派弁護士のように、この国の司法の根幹部分を変えてしまいたいと思っている人たちも絡んでいたわけです。

 彼らは職業裁判官中心の司法の世界を変えたいわけですね。治安維持的な裁判に対してずっと抵抗してきた人たちは、それを崩してしまいたいと思っていて、そのために裁判官の手から裁判を国民の手に取り戻せということになる。そうすると、陪審制という話になるわけですね。とにかく全部、国民から選ばれた陪審員が決めればいいんだという話になる。

 ところが、そこまでの制度は裁判所は絶対に認めない。でもまあ、参審制ならいいだろうと妥協した。これがとんでもない方向に発展する。

武田 たとえばどのあたりのことでしょう。

郷原 まず数のバランスです。アメリカの陪審員制のように12人の陪審員全員が国民から選ばれるというほどじゃないけれども、裁判官3人に裁判員6人という結構な人数を取り込むことにした。しかも裁判員を選挙人名簿から無作為に選ぶわけです。ヨーロッパの参審制は団体とかの推薦で、一応フィルターを掛けた形で裁判員が選ばれるんです。しかも任期制です。日本の裁判員制度はアメリカ方式を選択して、事件ごとに素人を無作為で選ぶのです。

 ただアメリカの場合、陪審員による裁判を受けるかどうかは、被告人が選択するんですが、日本は被告人の権利とは関係ないということで選択権はなし。

 もう一つアメリカの陪審制と違うのは、そこにヨーロッパでやっている参審制のように有罪無罪の判断だけではなく必ず量刑も含めて判断するというところです。でもヨーロッパは死刑を廃止している。日本の場合は死刑がありますから、死刑か無期かという職業裁判官ですら尻込みするような量刑を裁判員が判断する。

 これはもう、国際的にも類を見ないモンスターみたいな制度ですよ。

武田 欧米折衷なんだけど、悪いところだけ集めてみましたって感じでしょう、死刑の存廃についてアンケートを採ると死刑存置論が優勢らしいですけど、自分で判決下すとなるとびびりますよね。

制度がおかしければ、運用はもっとおかしくなる

郷原 ものすごく重い制度になったので、当然それに対して、国民の側は、参加したくないという声が上がる。そこで最高裁が何を始めたかといったら、裁判員の負担をできるだけ軽くするということです。

 そんなに気にしなくても簡単ですよ(笑)。すぐ済みますよ、せいぜい3日。長くても1週間で済みますよとなるわけです。要するに最初から3日間ツアーの日程でスケジュールを組んで、その日程でできる範囲内で審議を終わらせようということです。そうじゃないとツアー客が集まらないからです(笑)。

武田 最低催行人数があるわけですものね。裁判の場合も。

郷原 それで、3日で収められるようにしようと思うと、事前に争点を整理して、1日目は何、2日目は何、3日目は何と審理の予定を詳細に決めておかないといかんわけです。ところが、やっぱり実際の事件って、そんな単純なものじゃなくて、証人尋問でいろいろ調べていたら、最後のころになって思いも寄らない事実が出てくることもあるんですよ。

 で、どうするか。1つの方法はツアー期間を延長することです。でも、これは期間を限って仕事をやり繰りして来てもらっているので難しい。そこでもう1つ別のツアーを組んでやってもらう。これは法的には可能なんだけど、まずいでしょう。だって、最初からツアーに参加していない人が途中から出てくるわけですよ。

武田 急に引っ張り出されたって、それまで何も見て来ていないんだから、これはできない。もはや同じ裁判ではない。

郷原 そうすると、結局、最初の日程で何とか終わらせようという話になってしまいます。延長なしで終了して判決です。それまでの審理の結果だけで判断してまうということです。法律上は必ずそうなるということではないんですが、制度の組み立てに問題があるので、どうしても、そういう雑な裁判になってしいかねないということです。

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著者プロフィール

武田 徹(たけだ・とおる)

武田 徹氏

ジャーナリスト・評論家。恵泉女学園大学人文学部教授。『流行人類学クロニクル』(日経BP社)でサントリー学芸賞受賞。その他、『「核」論』『偽満州国論』『「隔離」という病い』(中公文庫)、『NHK問題』『戦争報道』(ちくま新書)ほか著書多数。 東京大学先端科学技術研究センター特任教授として2003-7年にジャーナリスト養成コースを運営。(写真:都築 雅人)



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インターネット、デジタルカメラ、ブログ、SNS…。情報発信の術を個人が手にした現在、ジャーナリズムの姿は否応なく変化している。それは、ネットを利用する個人が、半ば強制的に「ジャーナリズム」に巻き込まれるということだ。時代を泳ぎ切るには受け手として「メディアリテラシー」を備えるだけでは足りない。誰もが送り手になりうる状況を踏まえて、新しい時代にふわしいジャーナリズムの作法を知っておく必要がある。武田徹の「万人のためのネットジャーナリスト講座」、ここに開幕。

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