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クールな日本のあたたかなスウェットシャツ

  • 金丸 裕子

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2008年11月6日(木)

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 「風合いがいい」という形容がある。ふつうは、手織りのストールだったり、カシミアのコートだったり、上質な素材を表現する言葉だと思う。Tシャツやらトレーナーやら、もとは肌着だったカジュアルアイテムには使わない。

 ところが先日、「風合いのいいトレーナー」を着ている人と出会った。

 いや、トレーナーは和製英語で、正しくはスウェットシャツだ。もともとは運動量の烈しいスポーツ選手や第二次世界大戦中の兵士達が、汗を吸い取るために着ていたアイテムで、1950年代以降、Tシャツやジーンズとともにカジュアルウエアの代表アイテムとなったことは周知のとおり。そのスウェットシャツと「上質な風合い」という表現は不釣合いなように感じられるが、彼の着ていたものはまさにそうだった。

 彼ことE君は、30代前半のデザイナーで、顔を合わせた3回とも、スウェットパーカをセンス良く着こなしていた。聞けば、夏以外はほぼ毎日、同じブランドのスウェットを着続けているという。

ループウィラーのスウェットパーカ

ループウィラーってブランド知ってます? 色違い、デザイン違いで何枚か持っていて、もう何年も着続けているけどへたらないし、着ていて気持ちがいいんです」 

 改めてE君のスウェットを眺めると、しなやかに身体になじんでいるのに、型崩れはしていない。だから、おしゃれに見えるのだ。

 反射的に「わたしも欲しい!」と叫んでしまった。

 その足で千駄ヶ谷にあるショップへ直行した。明治通りの裏手にある小さな店だが、すぐにわかった。ウインドウに掲げられた吊り編み機(英語でループウィール)が目を引くからだ。

「昭和30年代に作られた機械です」

 わたしが吊り編み機を眺めていると、店の若い男性が話しかけてきた。

20分の1の速度でゆっくりと編む

ウインドウに掲げられた吊り編み機

「今、スウェットやニットは高速の編み機で作られていて、吊り編み機はどんどん姿を消しています」
「機械そのものがヴィンテージなんですね」
「この機械は、今一般に使われている高速機の20分の1のスピードでゆっくり回転して生地を編んでいきますから、肌ざわりのやさしい生地ができあがるんです」

 丸首タイプやジップアップのスウェットパーカなどいくつかのデザインを試着させてもらう。着心地もいいが、すっきりしたシルエットで街着としても十分使えるデザインが気に入った。傍らで店の男性が嬉しそうに見守ってくれる。しばらくすると、彼は自分の着ていたスウェットパーカを脱ぎ、裏地の起毛をさわらせてくれた。3年間洗濯機で繰り返し洗ったものだと言う。

「吊り編み機で編んだスウェットは、洗濯を重ねるほど良さが出てきます」

 触れてみると裏地のループがふわふわ。経年するとふつうは伸びたり広がったりする袖口やウエストのリブもしっかりとしたまま。

袖口のリブもしっかり
ふわふわな裏地のループ

 グレーの霜降り地にするか、黒にするか迷ったあげく、黒のジップアップパーカを手に入れた。価格は、1万7850円。スウェットシャツの代表的なブランド「チャンピオン」のスタンダードタイプに比べて3倍から4倍という値段だが、高いとは感じなかった。

 家に戻って、 Tシャツの上にスウェットパーカを着てみた。フィット感があって温かい。試しに、今まで愛用していたスウェットパーカに袖を通すと--あれっ、素肌に当たるループがザラザラとしている。今までは感じなかったのに……。買ってから2週間、あまりの心地良さに出動回数が多くなる。ふと、母に抱かれていたときのベビーケットを手放せない幼児の気持ちを思った。心地いい布に包まれている安堵感がなんともいえないのだ。

 「寝るときも、同じブランドのスウェットを着てるんですよ」そう言ったE君の気持ちが今はよくわかる。

 「スウェットシャツは吊り編み機に限る」というマニアが増えているそうだ。しかし、「そんな状況になったのは、ここ2年ほどのこと」とループウィラーを展開するミスズの社長・鈴木諭さんは冷静だ。

 吊り編み機でニットを生産している工場は、日本に2軒しかない。希少価値なだけに、需給を安定させて存続させる重要さを鈴木さんは知っているのだ。

 1990年代前半、鈴木さんが吊り編み機で生産したスウェットに絞ったもの作りをはじめた頃は、工場も10軒以上残っていたそうだ。

「大人になって吊り編み機でできたスウェットを着たときに、あれっと、子供の頃に母親に買ってもらったVANのスウェットの着心地を思い出したんです。あとからわかったことですが、当時のVANはすべて吊り編み機のニットを使っていたんです。記憶に残っていなくても、身体を包むものの温かみは質感として脳の中に刻まれている。茂木健一郎さんの言うクオリアですよね。それがよみがえってきて、感動して、それをうちの会社の主軸にしていこうと考えたのです」

 しかし、90年代中頃から日本のアパレル製造は中国に移っていく。吊り編み機は生産量が限られているし、追加発注にも簡単には対応できないということで、年々嫌がられ、「大変だから吊り編み機はやめる」という工場が続出した。

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