「多角的に「ストレス」を科学する」

外は真空、中は人、宇宙飛行士に安らぎを

閉鎖空間のストレス・マネジメント術−−井上夏彦氏(前編)

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2008年11月6日(木)

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 「地球は青かった」。人類史上、宇宙に初めて飛び立ったガガーリンがそう漏らしてから約50年。有人宇宙開発は多岐に渡り発展してきた。その一例が宇宙医学だ。無重力状態の生活がもたらす身体の変化を調べ、宇宙という特別な空間における健康管理手法を研究している。

 特別な訓練を経験する宇宙飛行士とはいえ、初飛行は初の宇宙体験となる。飛行士の精神にも多大な負荷がかかることは想像に難くない。特に地球を離れた孤独感は極限のストレス状況といえるだろう。

 かたや地上を見ると、多くのビジネスマンは日々「職場」という名の“密閉空間”で過ごしている。そりの合わない上司と毎日顔を合わせないといけない苦痛は、ひょっとしたらスペースシャトルや宇宙ステーションの密閉空間と相通じるものがあるかもしれない。

 今回、登場いただくのはJAXA(宇宙航空研究開発機構)で飛行士の精神心理支援のプログラムを作成している井上夏彦さん。前編では、宇宙特有のストレス症状やその取り組みについて尋ねる。

−−地上では大気圧や気候変化といった、地上特有のストレス原因があります。いっぽう、人が宇宙に行くことで起こる特徴的な症状としては、どういうものがあるのでしょうか?

井上:よく知られているのは血流の変化です。地上では、重力の作用で血液は下半身へと向かいますが、自然に血管に圧力が加わり、血液を上半身に戻しています。 

井上夏彦(いのうえ・なつひこ) 1968年東京都生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。同大学教育学部助手を経て、1997年度より宇宙航空研究開発機構(JAXA)に勤務。宇宙飛行士の精神心理的健康管理を担当。ロシアで行われた長期閉鎖実験などにも、共同研究者として参加している。

井上夏彦(いのうえ・なつひこ) 1968年東京都生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。同大学教育学部助手を経て、1997年度より宇宙航空研究開発機構(JAXA)に勤務。宇宙飛行士の精神心理的健康管理を担当。ロシアで行われた長期閉鎖実験などにも、共同研究者として参加している。

 ところが宇宙へ行くと、重力に引かれて血液は下に向かうことがなくなります。いっぽうで、下半身が血管を圧迫して上へ戻そうとする働きはそのまま。結果、「ムーンフェイス」といって、顔がぱんぱんに膨れるとか、鼻が詰まるといった症状が起きます。ただ、人間の体はよくできていて、無重力状態に慣れるにしたがって、少しずつ体液量が減り、血液も下半身に下がり、顔の腫れもおさまります。

 それと、無重力状態になるとほとんどの飛行士が「宇宙酔い」にかかります。くらくらしたり、気持ち悪くなったり、ひどい場合は前触れもなく突然吐いてしまったりします。

 ほかにも免疫力の低下や、骨や筋肉をあまり使わないので地上での寝たきり状態のように筋量や骨量が低下するという現象が起きます。

8時間作業で8.5時間睡眠、週休2日

−−宇宙空間で起こる精神への負荷もありますか?

井上:スペースシャトルのように2週間くらいのミッションであれば、“気合い”を入れていれば何とかなります。でも、国際宇宙ステーションで3か月も暮らすとなると、さすがに気合いや根性だけでは保ちません。

 閉鎖空間のストレスとしてよく知られているのは、地上と切り離されたことで起きる孤独感です。

 それに毎日同じ人間と顔をあわせなくてはならないので、対人関係のストレスがたまります。国際宇宙ステーションではロシア人やアメリカ人をはじめ、さまざまな国籍の飛行士と生活をともにします。いろいろな文化背景を持った人と生活するのは、結構しんどいことです。

 また、万が一気密が破れたり有毒物質が漏れたりした場合のように、生命の危機に常にさらされているという緊張感も特徴的です。

 地上でストレスがたまれば、タバコを吸ったり、散歩で気を紛らわしたりできますが、宇宙ステーションの中では、そうもいきません。

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著者プロフィール

尹雄大(ゆん・うんで)

ライター。1970年、神戸生まれ。「AERA」や「Number」などで執筆。〈考える高校生のためのサイト mammotv〉でインタビュアーを務める。著書に『FLOW 韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)



このコラムについて

多角的に「ストレス」を科学する

医学や心理学以外の視点から、「ストレスとは何か」を考えるインタビューコ ラム。「失敗学」「テクノストレス」「宇宙環境」など、さまざまな分野が専門 の研究者に、それぞれの立場からストレスを語る。多角的な見方からストレスの 本質が見えてくる。

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