平凡な人間としては、これらは胸をなで下ろされるエピソードだが、改めて、人間は環境に左右される生き物であることを知らされる。
宇宙空間での生活は、ちょっとしたミスで生命の危機につながる。チームワークが生命維持の上で欠かせないが、人間関係がストレスを生み、ヒューマンエラーを誘いもする。
いかに人はストレスをしのぎ、暮らすことができるか。宇宙では端的にそれが試される。前編にひきつづきJAXAの井上さんに、宇宙飛行士に対する具体的な支援やストレスケアについてうかがった。
−−前編では、宇宙ステーションなどの閉鎖空間に長期滞在すると、心身共に健康な人でも、あるストレスパターンが見られるというお話を聞きました。免れ難い環境の影響に対し、どういった具体的支援が行われていますか?
井上:ストレスの要因がわかっているものについては、それを取り除くよう計らいますが、宇宙空間に滞在すること自体が強いるストレスはどうしようもありません。
井上夏彦(いのうえ・なつひこ) 1968年東京都生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修了。同大学教育学部助手を経て、1997年度より宇宙航空研究開発機構(JAXA)に勤務。宇宙飛行士の精神心理的健康管理を担当。ロシアで行われた長期閉鎖実験などにも、共同研究者として参加している。
ただ、物理的な支援によってもストレスは軽減できます。例えば、テレビ電話を通じて地球にいる心理の専門家や精神科医との面談を行ったり、家族と会話する時間を確保したりといったことです。
ほかにも打ち上げの1年前から聞き取りを行い、本人の望んでいるもの、たとえば家族のアルバムやCDだとか必要な物品を持たせたり、欲しい情報を送ったりするようにしています。例えば宇宙飛行士の星出彰彦さんはラグビー好き。今後、彼が宇宙に行 くときは大学ラグビーの試合結果を教えることになりそうです。
NASA同様、我々もポテトチップスやチョコバーなど本人の好きなスナック菓子だとか、誕生日に合わせてあらかじめプレゼントを用意し、シャトルやプログレスに載せて軌道上に届ける計画を立てています。
地球の家族に不幸、そのとき飛行士は……
−−宇宙にいても、地球と同じような日常性を感じさせるツールがストレス緩和の上で大事というわけですね。
井上:そうだと思います。あと、昔からストレス解消にいいと飛行士の間で言われているのは、地球を見ることです。見ているだけで癒されると聞きます。
−−地球を見て癒されると同時に、地上に残した家族を思い出すかもしれません。
井上:ええ。飛行士にとって家族はたいへん気にかかる存在です。NASAの場合、家族に不幸があったらどうするかを事前に聞いています。人によっては包み隠さず知らせてほしいという人もいれば、不幸な知らせは教えてほしくないという人もいます。
NASAでは、国際宇宙ステーションに長期間滞在する宇宙飛行士に日常性を感じさせる方法として、飛行士だけが見られるウェブページを用意し、家族の写真や絵などを載せたりしています。また家族にも飛行士の情報を適宜知らせることで家族の不安も低減するようにしています。JAXAでももちろん同様なサポートを提供します。
クルー・リソース・マネジメントで適切な対人関係を
−−前編では、宇宙飛行士そのものの心理データが少ないというお話がありました。だとすると、飛行士の養成を行う上で何を参照に訓練を体系化しているのでしょう?
井上:航空分野は比較的近しいので参考になります。特に「クルー・リソース・マネジメント」は、宇宙空間の心理状況に適用できます。
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