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森の楽しみ方いろいろ

『明日なき森 カメムシ先生が熊野で語る 後藤伸講演録』 熊野の森ネットワークいちいがしの会・編 吉田元重・玉井済夫監修 新評論 2800円(税抜き)

  • 松島 駿二郎

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2008年11月7日(金)

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『明日なき森 カメムシ先生が熊野で語る 後藤伸講演録』 熊野の森ネットワークいちいがしの会・編

『明日なき森 カメムシ先生が熊野で語る 後藤伸講演録』 熊野の森ネットワークいちいがしの会・編

 後藤伸は子どものころから昆虫が大好きだった。自然の中で飛び跳ねていた。

 「いちいがし」とは樫の木の一種で、熊野の森に原生する。「いちいがし」は熊野の森の中、本宮町の大社の森でよく見られる。恐るべき生命力を秘めた樹木だ。くねり、まがりながら枝を伸ばしていき、全体で大樹の様相を伝えてくれる。古木の前に立つと、神に対面している気分になる。

 さまざまな菌類が樹表にへばりつき、緑のてかりを反射する。南方熊楠は粘菌類の研究を紀伊半島の森で始めたというが、まさにここでは研究材料に事欠かない。

 熊野の森は照葉樹林だ。照葉樹は秋に色づき、葉を落とす。春に芽吹く。樫の木の落葉と芽吹きは一気に来る。長い冬を耐え切ったある日、樫の木は一斉に葉を落とす。その直後に樹木全体が新緑に包まれる。新しい芽が古い葉を押し出すのだろうか。樫の木の早変わりにはいつでも驚かされる。一気に新しい生命が誕生する現場に立ち会うのは感動的だ。

 熊野の森とは切っても切り離せないのが蝶類だ。後藤の自慢はここで蝶の新種を発見したことだ。それはシジミ蝶の一種でヤポニカ(日本特異の)ゴトウイ(後藤の発見になる)と学名が付けられた。

 後藤には「カメムシ先生」というあだ名がある。カメムシは稲を枯らす害虫だ。ところが、後藤先生はカメムシを夢中で研究した。故にカメムシ先生となった。研究テーマはそれぞれの人物が選ぶものだ。熊楠は粘菌という、途方もなくジミなものを選んだ。後藤さんがカメムシを選んで悪いことは何もない。カメムシは独特の異臭を放つ。その匂いがしつこく残る。

 子どもがカメムシを採取して家に帰ると、母親はヒステリックに「遠くに捨ててきなさい!」と命令する。

 もう少しカメムシの話を。カメムシは夏は幼虫で、秋に成虫になる。カメムシの口は針になっていて、それを好物のカキやミカンなどの差し込んで養分を吸う。針を刺すと同時に消化剤も差し込む。すると表面では分からないが内部で、その消化剤が発酵し、くだものがダメになる。しかも、これも理由がよく分かっていないのだが、時折大量発生する。

 その数は半端ではない。数十万匹がいっせいに羽化する。居心地の良い家にもやってくる。家全体がカメムシの緑色になる。強い殺虫剤で殺して掃き出したら、大きなゴミ袋に詰めて軽トラで焼却場に持っていったら、こんな臭いものはダメ、といわれて途方に暮れた。紀伊半島の南で実際にあった話である。

 本書は講演録とある通り、話し言葉(それも関西弁)で書かれているので読みやすい。 でも、じっくり読めば内容が濃いことが分かる。

 日本の森は消滅の警鐘が鳴らされてから久しい。本書はそれを食い止める一助となれば良いのだが。

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