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「中国を信じる」「信じたい」「信じさせてくれよ…」~『加油(ジャアヨウ)……!』
重松清著(評:中村正人)

  • 中村 正人

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2008年11月20日(木)

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評者の読了時間6時間00分

加油(ジャアヨウ)……!──五輪の街から

加油(ジャアヨウ)……!──五輪の街から』 重松清著、朝日新書、800円

 昨年の夏、朝日新聞の北京オリンピック一年前特集で、「よーし、信じるこの街を」という大きな見出しを目にしたとき、「おやっ」と思った。「北京便り」と題する不定期連載コラムで、今年に入ってからも「信じる」という言葉を何度か使っていた。筆者は作家の重松清さんである。

 文脈ごとに「信じたい」内容は違っているものの、どうしてそこまで? この人は何を信じたいんだろう? そんな違和感を覚えた。

 せめて「見守る」、「応援したい」くらいならわかるけど。所詮外国で開かれるオリンピック。心配しても仕方がないのに、筆者の思い込みの強さが意外に感じられたからだ。

 未だに解決のつかない毒ギョウザ事件に始まり、チベット騒乱、聖火リレーの大混乱と、嫌中感情とは本来無縁の多くの読者も中国にはうんざりしていた頃だと思う。連日集中的に繰り広げられた当時の日本のマスコミによる中国「毒」報道の過剰さにも問題があったかもしれない。しかし、当該国の役人が事件の真相の究明をあいまいにしたまま、姑息にも「日本のマスコミが悪い」と批判の矛先を変えるようでは不信感が生まれるのも当然だろう。

 結果、日本人の「離中」意識が強まった。そう評者は考えている。

 北京市観光局の統計によると、五輪直前の2008年7月、北京市への日本人渡航者数は前年度比でほぼ半減。これはSARSや反日デモの時期に匹敵する。閉幕後も数字は戻っていない。現地の日系旅行業者にヒアリングしたところ、彼らは毒ギョウザ事件が決定的な要因だと分析している。1月の日本人渡航者が過去最高を記録したのに、事件発覚直後の2月以降急に落ち込み始めたからだ。

 事件の直接の影響もそうだが、それ以上に中国当局の対応の頑なさや手際の悪さが日本人の心を閉ざしてしまったのでは。あの国とはなるべく関わりたくないという心理的作用を生んだのではないか、と考えざるをえないのだ。

あきれた、ムカついた、キレた。…でも最後には笑いたい

 そんな「離中」現象の渦中に、著者の重松清さんは中国に繰り返し旅立っていた。本書によれば、五輪本番までは2007年の7月から翌年6月の間に計6回。〈長くても三泊四日、短いときは一泊二日という駆け足の取材ばかりだったのだが、(中略)どの取材もまことに密度の濃い、というか、あきれはてたり腹を立てたりすることばかりの、ココロが胃もたれして、アタマが胸焼けしそうな旅だった〉という。

 そして、五輪取材直前に大ピンチが訪れる。著者は痛風の発作に襲われる。こうして本書は「痛風持ちオヤジ作家」のルポ物語になる。松葉杖をつき、右足首の激痛にのたうちながら取材する自らの姿は、タイトルの「加油(ジャアヨウ=がんばれ)」にひっかけられた。〈しかし、この視点は「あり」ではないか〉〈松葉杖に象徴される視点から北京を、そして中国を眺めてみるのも悪くない〉

 なにしろ国を挙げて熱狂のるつぼと化すであろう五輪期間中に乗り込んだのである。中国に対して〈ことさら意地悪くみるつもりはない〉が、〈冷静ではありたい〉と考える著者には、松葉杖も物語上の格好の小道具、思考する上での冷却装置というわけだ。

 身体的ハンディを抱えつつ、重松さんはとても精力的に取材している。また、いろんな現場でムカつき、キレている。

 たとえば、青島の街角で出会った公式ボランティアの若者が見せる官僚的な態度。話を聞こうと声をかけても無表情のまま「上からの許可がないと答えられない」と無視をされ、〈自由な善意のもとに集まったはずのボランティアの若者が、なぜ役人のような杓子定規なことを言わなければならないんだ〉と気色ばむ。

 一方、マイナスの感情を埋め合わせるように、国家の祝祭とは無縁の人々、地方から出稼ぎで来ている農民工や四川震災被害地の人々との出会いにホッとする。〈まいった。笑った。(中略)オレ、結局そういう場面が見たくて歩き回っているんだな〉。で、重松さんは、こう語る。

〈理不尽は理不尽としてムカつきつつ、しかし最終的には、首をかしげながら、苦笑交じりに「なるほどなあ……」とうなずくような、そんな中国との付き合い方ができないものか〉

 最初から最後までこんな調子。安易な中国叩きに陥らないようバランスを取ろうと苦心しているのはわかるけど、自分は日本人として何事にもフェアであらねばならないと、どこかムキになってる印象も否めない。そこに違和感を覚えるのだ。

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