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7.きみは給与明細を同僚の目の前で開けられるか?

柴崎友香『フルタイムライフ』

  • 千野 帽子

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2008年11月26日(水)

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 ご無沙汰でした。千野帽子です。

 この連載に、いくつかコメントをいただきました。嬉しく拝読しております。ありがとうございます。

太陽のない街

太陽のない街』徳永直著、主婦の友文庫、525円(税込)

フルタイムライフ

フルタイムライフ』柴崎友香著、河出文庫、599円(税込)

 前々回いただいたコメントで、〈あの、ここ、日経ですよね? いいぞ、ガンガン行けー!〉というのがありました。ありがとうございます。恥ずかしながらわたくし、日経がどういう場所かまったくわからぬまま書いております。

 さて、連載開始早々、大正末・昭和初年のプロレタリア文学について書いてしまった。ブームとなった『蟹工船』と、ブームに合わせて新たに文庫本が出た葉山嘉樹である。

 じつは、最近新しい文庫版が(なんと主婦の友社から!)出た徳永直(すなお)のストライキ娯楽小説『太陽のない街』(1929)について、ちょっと原稿を用意しかけていた。

 けれど、「プロ文」ばかりで推し続けるのが、少々しんどくなってきたのも事実。どうせ働く話なのだから、そんなに明るいコーナーではないこの連載だけれど、いくら「負の癒し」の時間とはいえ、同じ傾向の小説に終始するばかりでは単調だ。

 今回は趣向を変えて、時代は21世紀の現代、主役は若い女性、舞台はいちおう保険も労災もカヴァーされていると思しき大阪・心斎橋のメーカー、というお仕事小説に注目してみたい。柴崎友香の長篇小説『フルタイムライフ』(2005)だ。

*   *   *

きょうのできごと

きょうのできごと』柴崎友香著、河出文庫、473円(税込)

 最初の作品『きょうのできごと』(2000)が行定勲監督・妻夫木聡主演で映画化されたと聞けば、柴崎友香をいわゆる「若い女性に人気の作家」枠に入れてしまう人もいるだろう。

 しかし、「等身大のヒロイン」を描いたと称する小説が書店に山積みしてあるけれど、そんな場所に柴崎友香の小説まで分類してしまうのはもったいない。

 『フルタイムライフ』は、美大のデザイン科を出て、心斎橋のそこそこ老舗の機械制作会社につとめている喜多川春子の、入社1年目、5月から2月までの10か月のできごとを書いている。

 といっても、できごとに乏しい小説である。

 できごとらしいできごとといったら、まあ、後半、会社で大幅なリストラが、というのと、冒頭で、無理を承知でアタックして一度振られた男友だちに、念を押すみたいに新たに「ふられ直す」ことくらいだろうか。

 べつに、入社1年目の春子は撥溂ワーキングガールではない。自己実現とやらを目指してキャリアに邁進するわけでもないし、女性誌に載ってそうな華麗な「アフター5を満喫」とかするわけでもない。

 もちろん、失敗する姿が先輩社員に好もしくうつるドジっ子、なんてものでもない。春子が作中でやらかす最大の失敗は、社のパソコンを私用で使っていてうっかりクラッシュさせ、書きあがったばかりの契約書が飛んでしまう、というもの。可愛いとかなんかじゃなく、「はっきり言って洒落にならない」ものとして作者は書いている。

 『フルタイムライフ』は、この主人公に感情移入させようとか、そういうさもしい根性でかかれた小説ではない。

 会社というものが変な場所であるということをめぐって書かれた小説なのだ。

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