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「テロ」(用途:近年では「甚だしい」の言い換え)

2008年11月26日(水)

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 「これは、もう、テロです」

 事件当日の夜、キャスターは、「テロ」という単語を連発していた。

 「テロですよ」

 と。

 さいたま市で厚生労働省の元政務次官夫妻が刺殺された遺体の姿で発見され、同じ日の夕方、中野区で別の元政務次官の妻が刺された日のことだ。

 翌日、朝刊各紙も、控えめながら「連続テロの可能性」という言葉を使いはじめた。で、夕刊紙が販売される時間帯になると民放各局およびタブロイド各紙は「厚生次官連続テロ」と二つの事件に対してはっきりとタイトルをつけるに至っている。

 これは、「テロ」なんだろうか?

 むずかしいところだ。

 というのも「テロ」という言葉の定義は、使う側の心構え次第で、ずいぶんと違ってくるものだからだ。

 辞書の定義を見よう。

「テロリズム:反対者(特に政府の要人)を暗殺するとか、国民を強権でおどすとか、暴力や恐怖によって政治上の主張を押し通そうとする態度。_terrorism」(岩波国語辞典)

「テロリズム:(1)政治目的のために、暴力あるいはその脅威に訴える傾向。また、その行為、暴力主義。テロ。(2)恐怖政治。」(広辞苑)

 元来、「テロ」は、「政治的」な目的を持って断行される犯罪を意味していた。

 その意味で、かつての連合赤軍による犯罪や、パレスチナ解放民族戦線が引き起こした一連の事件は、正しく「テロ」であった。

 が、近年、「テロ」のニュアンスは拡散し、その適用範囲は徐々に広がりつつある。

 たとえば、この春から夏にかけて連続した食品への毒物混入事件について、いくつかのメディアが「食品テロ」という言葉を使っていた。

 食品に毒物を混入させた犯人に「政治的」な意図があったのかどうかは、犯人が逮捕されていない現在の段階では、まだ判明していないにもかかわらず、だ。おそらく、犯行の「無差別」さ、「無目的」な感じが、「テロ」という言葉を呼び寄せたのだと思う。「なんだかデタラメな犯罪だよね」ぐらいな気分をこめて。

 もっとはなはだしい例もある。

 バラエティ番組の世界では、顔のマズい芸人に対して「その顔は顔面テロだぞ」ぐらいな評言が浴びせられる。

 あるいは、目隠しでトムヤムクンを食べさせられたリポーターが

「テロです。この辛さはテロです」

 といったような感想を述べる場面が放映されていたりもする。

 これらの場面では、「顔の不細工さ」や「スープの辛さ」のような、一向に政治的な要素を持たない性質に対して「テロ」という言葉が適用されている。ここにおいて、「テロ」は、単に「甚だしい」ということを意味する強調表現のひとつに変じているわけだ。

 とすると、インリン・オブ・ジョイトイが自らに冠している肩書き「エロ・テロリスト」も、まるっきり的はずれではないのかもしれない。エロほど無差別な攪乱要素はほかにありゃしないわけだから。

 そもそも、ジャーナリズムの世界では、特に政治的な意図を持っていなくても、以下のような特徴を備えている犯罪は特別に「テロ」と呼んで、一般的な泥棒や暴行と区別していた。

1. 犯人が「正義」を実行しているつもりで犯行に及んでいる。あるいは、犯行に至る動機が甚だしく「独善的」である:オウム真理教地下鉄サリン事件。よど号ハイジャック事件。

2. 犯行の対象が「無差別」であり、犯情が著しく「残虐」である。:岡本公三によるテルアビブ空港無差別乱射事件。

3. 犯行に明確な「連続性」があり、共通する要素を持つ被害者に対して、同じ手口で、同じ犯罪が繰り返される傾向を持つ:アルカイダによる連続爆破テロ

 ……で、いつしか、犯情が悪質だったり、動機が理解不能だったり、手口が常識外だったりする犯罪を、「超犯罪」「ド爆破」「超ヤバ殺人」ぐらいな強調の意味を込めて、「テロ」と呼ぶ習慣が生じる。

 そうこうするうちに、メディアは、事件をフレームアップせんとする本能から、次第に「テロ」という言葉のハードルを低めてきた――あり得る話だと思う。

 古い定義では、テロは、二通りに色分けされていた。

 「古い定義」というよりも、共産主義イデオロギーが生き残っていた時代には、テロを色分けして考えるテの知識人が珍しくなかったのである。私が通っていた学校にもその種の教授はいた。っていうか、主流だっ たかもしれない。なにしろ30年前だから。

 念のために申せば、ここで言う「色」は、「赤」と「白」だ。

 説明する。

コメント6

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「あなたも「選挙では世の中を変えられない」と思う?」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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