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30分のネタを4分半にするには~『落語家はなぜ噺を忘れないのか』
柳家花緑著(評:朝山実)

角川SSC新書、800円

2008年11月26日(水)

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評者の読了時間3時間00分

落語家はなぜ噺を忘れないのか

落語家はなぜ噺を忘れないのか』 柳家花緑著、角川SSC新書、800円

「オレもしつこいけど、あんたも相当にしつこいなあ、まだついてくるかぁ?」

 ある落語家さんに、うんざり苦笑されるくらい取材でついてまわったことがあった。福笑いのような顔の奥にある本心というか、正体を掴みあぐねていたのもあるが、いま思えば、側にいると、いろいろと学べることが多く、離れがたかったからだ。

 彼がテレビの寄席番組に出るとなると、弟子が数人、必ずついてきた。世話をやかれるというよりも、むしろ逆。出番までのすごしかた、共演者への挨拶から、気働きの仕方まで、現場でしか身につかない作法を、ひとつひとつ教えていた。

「なにも弟子つれて威張りたいわけじゃないですよ。これも勉強なんです」

 と語っていたが、年齢を重ねるほど、その意味がわかってくるようになった。礼儀作法はもちろん、師匠のまわりにはいろんな人がやってくる。人間を見ろということでもある。そうでなければ、落語の登場人物を幾通りにも演じるなど到底できないことだ。

 落語の世界は、師匠や先輩方の十八番の噺を口伝えで教えてもらうのが基本で、教わるからにはお礼をしなければいけない。このお礼というのが、そもそもの仕組みを知らないと笑われることとなる。

 たとえば本書の著者が、立川談春にネタを教わったときに、談春は「梨が欲しいな。梨持ってこい」と言ったとか。これは、やさしさなのだと書いている。

〈「何も言わなきゃ、こいつは何を持ってきていいかわからなくて、ロクなもん持ってこねぇな」というね。それで高級フルーツ店で立派なのを五、六個買って行きましたよ〉

 かと思えば、著者の体験例として、後輩から「ありがとうございました」と差し出されたのが、MD5枚組のパッケージひとつ、しかもディスカウント店のテープが付いたままの、ということもあったとか。

 これではお礼どころか、逆効果。お金で引き換えにできないものだからこそ、お礼の仕方には苦慮するものだ。

人間国宝の孫、だからって天才じゃない

 本書のタイトルで、近頃よくある安っぽい新書だと判断してはいけない。プロとはどういうものかについて説いた、けっこう、深い内容だ。

 著者の柳家花緑は、人間国宝となった五代目柳家小さんの孫で、9歳にして高座に上がり、15歳で小さんに弟子入り、戦後最年少の22歳で真打に昇進。覚えたネタは、145本。

 というと、天才の血を受け継いだサラブレッドで、ひょいひょいと階段を駆け上がったように思いがちだが、持ちネタの覚え方を知ると見方は変わる。

 花縁の場合、まずはカセットテープなどに録音した手本をノートに書き起こす。前座の頃から、ずっとこの方法をとってきた。しかも、一語一句、語尾もそのままに書き写してきた。本書に掲載されている、縦書きにびっしりと字が詰まったノートの写真を見ると、びっくりだ。

 ただし、落語家が全員そうしているかというと、そうでもない。たとえば、先の立川談春は一回、噺を聞いただけで覚えてしまう。録音もメモもしない。そういう稽古の場面を目の当たりにして、花縁は「こんな器用な人がいるのかと驚きました」と記している。

 談春を天才肌と捉えるなら、著者は努力の人である。足りない分を埋める方法を学んだ人だ。

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