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サムライボンド・ノンフィクション

「サムライ」(用途:暗示、催眠、思考停止)

2008年12月1日(月)

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 アイスランドの銀行が発行しているサムライ債が、事実上の債務不履行状態に陥ったというニュースが流れてきたのは、10月下旬のことだった。

 その時、私が反射的に思ったのは、

「どうしてまたサムライなんていうゲンの悪い名前を持ってきたのだろうか」

 ということだった。

 というのも、サムライは、生きることによってではなくて、死ぬことで職務を遂行する一種の「捨て駒」だからだ。

 であれば、死んで当たり前。というよりも、死ぬのが仕事ですよ。世襲のトカゲの尻尾であるところの彼らの。……言い過ぎだろうか。

 つい先日、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表チームの愛称が「サムライ・ジャパン」に決定したという話を聞くに及んで、私は、またしても「あちゃー」と思った。

 だって、あまりにも四十七士っぽいではありませんか。発足の状況から、行きつくであろう末路に至るまでの何もかもが。

 ということで、今回は、「サムライ」について考えてみたい。

 この言葉は、われわれ日本人が「責任」や「義務」について論じる時に、避けて通れない概念だ。あるいは、「私」(わたくし)と「公」(おおやけ)、「個」と「全体」、「組織」と「個人」、あるいはまた「戦略」や「作戦行動」について考察する場合にも、だ。

 なのに、わたくしどもは、もっぱら判断放棄をする時に「サムライ」を召還することになっている。

 別の言い方をすると、「サムライ」は、私たちが、「アタマを真っ白に」したい時に使う言葉で、「サムライ」化している時、われわれは、ロボット化しているのである。

 ……と、私は、そんな感じを抱いている。
 賛成できない人もいるだろうが。

 「サムライ債」は「円建ての外債」の由らしい。

 最初にこの名前を考えついたのは、もしかして、外人さんだったのだろうか。だとしたら、仕方がないと思う。知識がないわけだから。ほかに「ニッポン」をイメージさせる言葉を知らなかったのであろう。「アソウ・バウンド」とかじゃインパクトに欠けるし。ともあれ、「カミカゼ債」「ハラキリ債」よりは多少マシではある。「ゲイシャ債」も、信用が得られにくかろうし。まあ、仕方がない。

 あるいは、外国人にとって「サムライ」は、「勇敢」で「清廉」なイメージを呼び起こす、ポジティブな言葉であるのかもしれない。おそらくは、ハリウッド由来の。「ショーグンの配下で闘う有能で冷徹な戦士」ぐらいな。

 が、日本人である私にとって、「サムライ」は、そんなに単純な概念ではない。少なくとも、外債のネーミングだとか、金融商品のタイトルとして採用したい言葉ではない。

 第一、サムライがリスクヘッジをするだろうか?

 しないな。絶対にしないと思う。逆にいえば、リスクをヘッジするみたいな態度を、サムライは心底から軽蔑している。そういうヤツなのだ。

 ちなみに、ハラキリは、ヘッジの手段としては最悪。ヘッジにもなんにもなっちゃいない。むしろデフォルトだよね。トレーダーの末路としては。

 まあ、ヘッジファンドがリスクヘッジをしくじっていたりする時代なのだから、それはそれであり得る話なのかもしれないが、それでも、ハラキリは良くない。なにより、デフォルトする立場の人間が自己陶酔しているところが許せない。

 おそらく、サムライハートなトレーダーは、柔軟な資金運用ができない。ヘッジもポートフォリオもスイングもまるで無視。チャートなんか、目をくれることさえしないと思う。

「あいや、飛び道具は卑怯に存ずる」

 とか言って。どうせ。

 長所は、強いて言うなら、「散り際の潔さ」、もしくは「出処進退の明確さ」あたりになる。が、世襲官僚の生命を組織防衛の捨て石として利用していた封建ジャパンの幕藩体制下ならいざ知らず、現代の金融市場において、担当者のハラキリは責任放棄でしかない。っていうか、一種の暴力ですね。市場に対する。

 いずれにしても、「サムライ」は、一向に「戦略的」な感じのするキャラクターではない。「賢明」だったり「柔軟」だったりするムードも無い。「直情的」で、「融通の利かない」「頑固」で「不器用」で「硬直的」で「事大主義的」な、いずれにしても経済の担い手としては最悪な人物像だ。「武士の商法」という成語が成立するほどに。

 なぜ、武士は商いができないのだろうか?
 もちろん、商売を軽蔑しているからだ。商売および商人ならびにカネ一般を。心底から。

コメント12

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「サムライボンド・ノンフィクション」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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