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もう無視できない貧困と児童福祉の関係~『子どもの最貧国・日本』
山野良一著(評:田中秀臣)

光文社新書、820円(税別)

  • 田中 秀臣

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2008年12月1日(月)

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評者の読了時間2時間30分

子どもの最貧国・日本──学力・心身・社会におよぶ諸影響

子どもの最貧国・日本──学力・心身・社会におよぶ諸影響』 山野良一著、光文社新書、820円(税別)

 10年くらい前、日本で「児童虐待」がマスコミで頻繁に報道されるようになった頃のことだ。児童虐待を研究している知人から、当時の研究動向をたまたま聞く機会があったのだが、そのときの印象は「なんで経済的要因について議論がほとんどなされてないんだろうか?」というものだった。

 その人の説明からでてくるのは、遺伝的な要因(親が児童虐待していると本人も児童虐待をする場合が多い)や漠然とした社会環境の変化(企業社会の変化とか、要するにグローバル化やらIT化の進展で人々の生活がストレスのあるものに変容した)だった。僕はむしろ児童虐待を経験した家族の所得や就業の状況などの方が重要に思えてしょうがなかった。

 長くその疑問があったが、今回この山野氏の著作を読んでようやく視界が開けた。本書の特色は、児童虐待を含めた日本の子どもたちのさまざまな障害を経済的要因に焦点をあてて説明していることで、これは日本でも先駆的な業績と思われる。また、日米での児童福祉の現場についての著者の豊富な体験談が本書をより説得力のあるものにしている。

 本書は、子どもたちの貧困の状況とその原因を探る概論部分、多様な子どもたちの貧困状況(児童虐待、脳の発達や健康への影響、ストレスなど)のケーススタディ、そして対策の三部構成で書かれている。

貧困が児童虐待を生む

 山野はユニセフレポートやOECDのデータなどから日本の子どもの貧困率が最近高まっている事実に注目し、しかもそのことに政府や国民があまり関心を抱いていないことに警告を発している。山野は子どもの貧困化を、児童福祉司という立場で無数に体験していた。

〈ある児童擁護施設に入所している母子家庭の子どもの引き取りに向けて、親御さんと話し合いを重ねるなかで、母親の仕事の状況が見えてきました。母親は小さな弁当屋で働いていますが、休みは日曜日のみです。夏休みや冬休みも三日ほどしか取れません。この児童養護施設は、母親が住む市から離れたところにあるために、親子の交流を深めることが物理的に難しいのです。母親には、かつて精神的に不安定な状況があり、虐待的な親子関係が見られました。母親の精神状況は、ようやく回復期を迎えたのですが、母親の現在の就労状態が、親子の関係を修復する上での障壁になっているのです。児童養護施設は、どこも満床状態で、母親の住む市の近くの施設に子どもを移すことも不可能です〉(35-36頁)

 この冒頭近くで紹介されるケースに本書のほぼすべての問題点が明らかにされている。母子家庭が貧困に陥りやすいこと(日本のひとり親家庭の貧困率は主要先進国で一番である)、そしてワーキングプア(低所得で過酷な労働の状況)であることが、母親の精神的な健康を悪化させ、また子どもへの虐待に結び付いている。

 この過酷な低所得状況をどうにかしないでは、この母子間の問題が本質的に解決されないことを著者は指摘している。

 母親の貧困は自己責任にだけ帰すべき問題ではない。むしろワーキングプアに陥らせている経済状況に原因があるのだ。だから個人に問題の解決をゆだねるのではなく社会がその責務を担う必要がある。これが本書の主要なメッセージだろう。

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