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9. 上司に〈よしなに〉と言われる恐ろしさ。

岸本佐知子『気になる部分』『ねにもつタイプ』

  • 千野 帽子

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2008年12月10日(水)

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 日直のチノボーシカです。まだ首がつながっています。

 前々回の柴崎友香『フルタイムライフ』、前回の木村紅美『風化する女』と、女性会社員の視点で会社が「異化」されていく小説を読んでみた。

 今回取り上げるのは、英語圏文学の翻訳家・岸本佐知子のエッセイ集。

オレンジだけが果物じゃない

オレンジだけが果物じゃない』ジャネット・ウィンターソン著、岸本佐知子 翻訳、国書刊行会、2520円(税込)

中二階

中二階』ニコルソン・ベイカー 著、岸本佐知子 翻訳、白水Uブックス、998円(税込)

 岸本の翻訳は、ジャネット・ウィンターソンの『オレンジだけが果物じゃない』(国書刊行会)やニコルソン・ベイカーの『中二階』(白水Uブックス)など、名訳の誉れ高い逸品がけっこうある。

 よくまあこんな小説を見つけてくるなあと感心し、しかしそのつぎの瞬間、この小説が「こんな小説」なのは、訳者の腕が上等なせい、つまり日本語力が優れているせいではないかと気づくのだ。

 翻訳小説の読者は、こうして岸本の文章に惚れていく。

 さて、岸本のエッセイといっても、愚にもつかぬ身辺雑記や鼻持ちならない業界交友自慢でもなければ、まして承認欲求丸出しの真情の吐露や出産・子育て体験記でもない(とはいえ、出産・子育て体験記でも、もうひとりの人気翻訳家・鴻巣友季子が書いた『孕むことば』はけっこうおもしろい)。そういうものがエッセイだったら、岸本の文章はなんと呼んだらいいのだろう。

 事実を語るような顔をしておいて、「べつの世界」につるん、ぽとんと入りこんでしまう、魔法のような冗談のような文章なのだ。

 かつて、内田百閒や赤瀬川原平はそういう文章を書いたし、芸風はだいぶ違うが土屋賢二もときどきそういうものを書く。

 岸本の文章は、そのどれともちょっとずつ、あるいは大いに異なっている。

 しかし魔法のような冗談のような、上等の文章であることは、多くの人が認めるところである。

*   *   *

気になる部分

気になる部分』岸本佐知子著、白水uブックス、966円(税込)

 最初の単行本『気になる部分』(2000)に「残業の夜」という文章がある。

 語り手は──いや、一人称代名詞がないので、ひょっとすると三人称の視点人物かもしれないのだが──〈プロジェクトにかかった経費を表にするというだけの〉仕事をしていて、会社に居残っている。

〈さいきん会社もいろいろとうるさくなり、八時以降は残業手当がつかなくなってしまった〉

 明朝の会議で使う大事な資料なので、慎重にやらなければならないのだが、同時に、急いでもいる。

 というのも11時には守衛さんが電気を消してしまうからである。それを思うとさらに焦る。

 しかもこの人物は、鉛筆と消しゴムと紙と電卓で、その表を作っている。そのせいか、経費べつの縦の計と月別の横の計とが、何度計算しても合わない。

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