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最後に勝つのは『負ける建築』
~モール、超高層、ネットワークに背を向けて

  • 大塚 常好

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2008年12月3日(水)

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負ける建築

負ける建築』 隈研吾著、岩波書店、2200円(税抜き)

 熱海・伊豆山の「蓬莱」という旅館に泊まったことがある。

 知人に誘われ訪れたその旅館は、箱根の「強羅花壇」、伊豆修善寺の「あさば」などと並ぶ高級旅館で、予約が極めて取りにくいということだった。開業 1859 年だから老舗には違いない。なのに、とてもモダンでアートな空間。生け花、掛け軸、照明、食事…すべてが洗練され上品で、どこかエロチックだった。

 蕩ける、という感覚。酒を飲まなくても心地よい気分に酔えた。そんなラグジュアリー&リラックスの究極は、当時新設されたばかりの露天風呂「古々比の瀧」(こごいのゆ)」だった。ちょっとした美術品的雰囲気である。

 聞けば、この露天風呂を設計したのが、本書『負ける建築』の著者で世界的建築家の隈研吾なのだそうだ。

 檜は、浴槽だけでなく、屋根の骨組みにも大胆に使った数寄屋式。雨よけに白のアクリル素材が載っているので穏やかな光が全体を包んでいる。さらに……。

 湯船の水面には、巨木の色が絵画のように映り込む。相模湾の波打つ音や小鳥のさえずりを含む自然環境も緻密に計算した、お見事な設計だった。

 本書は、そんな隈の建築哲学が伺える内容となっている。

テーマパーク化する社会

 さて、建築的に「負ける」とはいかなる意味なのか?

〈(高層建築などのように)突出し、勝ち誇る建築ではなく、地べたにはいつくばり、様々な外力を受け入れながら、しかも明るい建築というのがありえるのではないか〉

 この「外力を受け入れながら」というのがポイントだ。あの蓬莱の露天風呂で言えば、海や木や鳥や光ということになるだろうか。「負ける建築」の定義を本書からもう少し引用してみよう。

〈その場所、その場所の微妙で多様な条件をリスペクトしながら、一つずつユニークな解答を出していくようなねばり強いクリエイティビティ〉

 デザインとしてオリジナリティがあると同時に、周囲の環境に溶け込む親和性もあること。もう少し具体的に言えば、一見、建てるには条件の悪い敷地でも、その“ハンデ”を逆に生かした着眼力があれば、見る者がはっとする建物にできる。

 例えば隈は、山あいの美術館を周囲の風景と調和させるため、地元の間伐材の格子をあえて多用することで裏の里山とシンクロした美しい建築を生み出した。

 つまりは、クライアントや建築環境とよく“話し合う”こと。

 隈が、負ける建築と比較対照し、批判的に見ているのは、都心に屹立する摩天楼や、郊外に立ち並ぶ一戸建て住宅群、テーマパークなどの「勝つ建築」である。さらに言えば、「勝つ建築」的な世の中や人々の思考回路である。

〈すべてはエンクロージャー(囲い込まれたもの)へと向かっている。すべてはテーマパークに向かっていると言い換えてもいい。これは建築や都市に限定された話ではなく、社会の全体を覆う傾向でもある。綿密に計画され、構築された現実の社会の代用品。それが今日、社会のすべての領域で増殖しつつあるエンクロージャーの本質である〉

 ITによるネットワーク化もまたエンクロージャーだ。なぜならネットワーク化され電子テクノロジーによって緊密に接合されているのは、あくまでエンクロージャーの内側で、その外側に対しネットワークは切断され、排他的に作用するから。

〈ネットワークもまたエンクロージャー型に閉じているのである。そこにネットワーク化という概念の陥穽がある〉

 周囲の環境を圧倒する二〇世紀型のモニュメント的な「勝つ建築」は今やその強さゆえに人々に疎まれている。建築はもっと弱く、もっと柔らかいものになれないだろうか。さまざまな外力を受け入れる“受動性の建築”によって、世の中のエンクロージャー(自閉)的な思考回路をも変質できるかもしれない。隈はそう考えている。

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