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天衣無縫 自由自在の表現主義

『尾崎放哉随筆集』尾崎放哉著 講談社学芸文庫 950円(税抜き)

  • 松島 駿二郎

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2008年12月5日(金)

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『尾崎放哉随筆集』尾崎放哉著

『尾崎放哉随筆集』尾崎放哉著

 咳をしても一人

 尾崎放哉のもっとも有名な俳句である。沈思しつつ、この句を味わってみよう。天涯孤独の男の姿が浮かんでくる。尾崎は五・七・五という句型を無視し、季語という俳句の約束事から離れて、自分の内奥を凝視して、ポツンと句を吐き出す。

 尾崎の句はそのすざまじい自己凝視で、多くの支持者を勝ち得てきた。大正末期から昭和初期まで短い俳句人生だったが、現代でも得難い読者が多い。

 尾崎はドロップアウターのはしりだ。鳥取県出身、帝国大学法科大学政治学部を卒業した。末は博士か大臣かの時代である。地元選出の国会議員になってもちっとも不思議ではない。高校時代に夏目漱石から1年間英語を学んだ。

 尾崎は酒好きだった。酒癖は最悪だった。酔うとくどくなり、次第に友人たちが離反していった。しかし、それこそ尾崎が望んでいたことだった。

 当時はドロップアウトなんて言葉はなかった。「離俗」という。俗世間から離れる、という意味だ。そして、破格の俳句を詠み続けた。漂流子の好きな句をふたつ。

 何か求むる心海に放つ

 心まとめる鉛筆とがらす

 この2句では後者が好きだ。ひとりで孤独に鉛筆を鋭く削っている。怖い怖い、だけどこの情景に漲る孤独感は、いい知れない。見事に自己の内奥を表現している。破格の俳句は表現主義の最適な道具のようにも思う。

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