「多角的に「ストレス」を科学する」

感情と勘定、どっちが合理的?

「行動経済学」は心とお金の橋渡し--友野典男氏(前編)

  • 尹 雄大

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2008年12月4日(木)

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 多くの人が、経済は合理的な予測や判断で動いていると堅く信じている。実際、競合激しいビジネスの世界で求められるのは、“感情的な判断”ではなく、むしろ理性に基づく“理論的な決断力”のほうだ。

 もし、合理性が大切と思っている人たちに「経済は感情で動いている」などと言ったら、どんな反応をするだろうか。

 だが、考えてみてほしい。たとえば出勤途中で選ぶ缶コーヒーだ。何十種類の中から毎回合理的な判断に基づいて「今日は無糖ブラック」などと決めているだろうか。ほとんど説明のつきようのない心情で選択しているのではないか。

 人間の感情も、経済学で取り入れられようとしている。2002年、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは経済学と認知心理学を統合した。彼の影響でがぜん活気づいたのが「経済行動学」だ。研究者たちは、人の感情や直観、記憶を重視し、現実に即した経済学を再構築しようと試みている。

 今回は日本の行動経済学の牽引役でもある明治大学教授の友野典男さんに従来の経済学の成り立ちと人間の感情的判断の有効性についてうかがった。友野さんの著書『行動経済学 経済は「感情」で動いている』も現在、注目を集めている。どうやら人々の感情は、経済社会を大きく動かしているようだ。

−−経済学と認知心理学を統合させたダニエル・カーネマンが2002年、ノーベル経済学賞を受賞しました。その影響から、このところ経済活動と心の動きの結びつきを解明しようとする「行動経済学」に注目が集まっています。そもそも経済学の黎明期においても、心理学と経済学は不可分だったそうですね。

友野:そう。アダム・スミスやケインズは「心理学と経済学は、分かつことはできない」と考えていました。経済を考えるとは、人の行動を観察し、人間について考えるということ。そうなれば当然、心理は考慮されるべき事柄となります。

友野典男(ともの・のりお) 1954年埼玉県生まれ。早稲田大学商学部卒、同大学院経済学研究科博士後期課程退学。2004年より明治大学情報コミュニケーション学部教授、同大学院グローバル・ビジネス研究科講師。専攻は行動経済学、ミクロ経済学。主な著訳書に『行動経済学』(光文社新書)『慣習と秩序の経済学』(訳、日本評論社)、『経済学の論理と数理』(共著、早稲田大学出版部)など。

友野典男(ともの・のりお) 1954年埼玉県生まれ。早稲田大学商学部卒、同大学院経済学研究科博士後期課程退学。2004年より明治大学情報コミュニケーション学部教授、同大学院グローバル・ビジネス研究科講師。専攻は行動経済学、ミクロ経済学。主な著訳書に『行動経済学』(光文社新書)『慣習と秩序の経済学』(訳、日本評論社)、『経済学の論理と数理』(共著、早稲田大学出版部)など。

−−不可分だった両者が、なぜ経済学と心理学というふうに分かれてしまったのでしょうか?

友野:200年くらいかけて分化していったのですが、それも自然の成り行きだったのでしょう。分かれたいちばんの理由は、心理的な側面は“わかりにくいから”。研究者たちが曖昧さを削っていって、とにかく形式的に数式に表しやすいモデルをつくっていったら、数理モデルが独り歩きしてしまった。

 それに物理学ではきれいな体系ができていたから、「経済学も物理学みたいになるべきだ」という風潮も後押ししたのでしょう。

経済学の対象は“一貫していて、矛盾がない”人

−−きれいな数式で記述できるということは、予測や理論化が可能になったということですよね。数理モデルが確立されたことで、経済学における人間観はどういうふうに構築されたのでしょうか?

友野:「合理的な判断を下せる人たちが自分の利益を追求する」といった普通の経済学の前提となっている人間観ができたといえそうです。生身の人間を経済学の体系化にあてはめることで誕生した考えだと思います。

−−「合理的」とはどういう意味ですか?

友野:「すべての選択肢を知っていて、その中から自分の満足を最大化する。そのときの好みの体系は一貫していて、矛盾がない」。一般的な経済学では、それを「合理性」と定義しています。それが本当に合理的かはわからないのですが、それは問わないことになっています。

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