「人生の諸問題」

「テレビCM」と「家族」と「フッキング」と

おまたせしました、シーズン2開幕!

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2008年12月12日(金)

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日本最強の広告クリエイティブを率いる岡康道氏と、希代のコラムニスト、小田嶋隆氏、ふたりは高校の同級生だった。「伝達」を生業とする旧友が台本抜きで論じるコミュニケーションの技術論トーク、それが「人生の諸問題」。おまたせしました、3月7日「地デジ」と「カンヌ」と「ギャンブル」と以来の「人生の諸問題」再開です。編集部側の諸事情で大変時間がかかってしまいましたこと、お詫び申し上げます。今回からしばらく、岡さん、小田嶋さんがそれぞれ作った広告、書籍についてのお話をお送りします。これまで同様、ゆるゆるとお楽しみ下さいませ。(編集部)

 僕は最近、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の第1巻を読み始めて。

小田嶋 文庫版の新訳シリーズか。

 そう。

小田嶋 面白い?

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力:「Cafe 杏奴」)

 面白いんだよ、これが。実は高校時代に読んだとき、こんなつまらないものはあり得ない、と思って何も覚えていなかったんだけど、今、読み直してみたら、何でこんな面白いものをつまらなく感じたんだろう? というぐらい面白くてさ。

小田嶋 俺は中2のときに『罪と罰』を読んで全然分からなくて、何、これ? って大嫌いになった。それも途中で挫折するような人はまだいいんだけど、俺は半ば勉強家だったから、苦しいのに最後まで読んで、それで大嫌いになっちゃった。

 僕は最近、映画も本も、もう自分に合わないな、と思ったら即座にやめる。だって、持ち時間が残り少ないもの。

映画は四半世紀ぶりに見ました

小田嶋 俺の場合、映画は守備範囲ではないと、あらかじめ決めていて。この間、「ロード・オブ・ザ・リング」を見たときに、映画館で映画を観るのはいつぶりだろう? とふと思って、思い出してみたら「インディ・ジョーンズ」以来だった。

 それって25年ぶりぐらいか。だとしたら4半世紀の空白だよ。

小田嶋 「インディ・ジョーンズ」の前は「家族の肖像」ぐらい。1976年。難しい女の子に連れていかれて、すごく苦しんだのは覚えている。

 僕は高校生のときまでは結構観ていたんだけどね。それで大学へ行ってまったく観なくなって。大学時代に「ロッキー」の「1」「2」だけ観て、電通の営業時代は「3」と「4」。だから8年間で4本しか見なかった。

小田嶋 「ロッキー」4本だと、クリエイティブ局に移ってからはつらかろう。

 そうそう。まったく映像の仕事なのに、映画の話が分からないなんて論外だった。だからそこから猛勉強をしましたね。以来、週に1本は必ず観ている。

小田嶋 岡というのは、そういうところが偉いよね。俺はあれだもん。本は読んでいるんだぞ、とひけらかしで周囲を圧倒しつつも、映像の話をされちゃうと言い負かされるわけ、いろいろ。そこですぐひねくれて、俺は映像一切その辺は分からないと、シャッターを下ろしちゃう。直近は何を見たの?

 一番新しいのは、「ヒトラーの贋札」ですね。(※編集部注:すみません、収録から相当時間が空いているので、当時のお話ということです)

一同 (誰も知らない)

 あれはいい映画でした。

小田嶋 俺、昨日あれを見てきたのよ。岡にもらったDVD(=「岡康道CM作品集私家版」)をさ。パソコンで個人的に見ようとしたけど、今、うちのパソコンの調子がおかしくてダメだったんだよ。で、しょうがなく居間にあるテレビで、家族全員で見ることになった、という。

 いやいや、広告というのはそういうものなんだ。

小田嶋 だけど、お前の作ったものはね、家族で見ると嫌な空気が流れてね。

 ははは。

小田嶋 引っ込みがつかなくて、一家4人で小1時間見ちゃったんだけど。何かエッチな番組が始まってしまう、というような、よくある気まずさでは全然ないんだけど、出てくる家族がみんなイヤな家族で、触れてはいけないところに触れてきて・・・・・・。

 まあ、そう、確かにね。

余白? それは見ている人におまかせ

小田嶋 うん。でも、それで1つ気が付いたのは、コラムニストってコラムを書くわけだけど、適当に書き始めて着地さえ決まればいいや、みたいなところがあるの。だけど岡のやっていることは、とてもその正反対だなと思って。というのは、CMってとにかく30秒だか15秒だかの映像で、何かを表現しなきゃいけないわけだけど、そういうのは基本的に無理じゃん。

―― 小田嶋さんは、あっさりと諦めると。

コラムニスト 小田嶋隆氏

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋 でしょう。家族にしても、30秒では描ききれっこないじゃん。でも、こいつのやっていることは違うんだよね。描ききるということを一切しなくて、何か素材として1個を放り出して、あとは自分で埋めてくれ、みたいなやり方で、コラムになぞらえて言うと、書き出しの20行ぐらいを書いて、あとはお前らで埋めてくれ、みたいな、そういう方法なのよ。

 俺はコラムを書くとき、面白い書き出しだとか、次を書きたくなるような書き出しだとか、余白を埋めたくなるような書き出しだとか、とにかく書き出しというのはあまり考えたことがないんです。でも、岡はそういう手口をたくさん持っているな、と思って感心しました。

 余白を埋める作業というのは、見る人の想像する力だよね。そういうところに委ねたいというか、そういうことにスイッチが入ってくれたら、僕としてはうれしいわけです。ただやっぱりそれは、クライアントからすると、何でこれ、はっきりしないんだ、という怒りにつながりやすくて(笑)。

小田嶋 怒る前に、置いてけぼりにされてしまう、という感じだよ。

 だから、芭蕉だっけ、すべてを言ってどうするんだ、というようなことを言っているエラい人がいますよね。そういうことは映画や本に限らず、広告でも当てはまるところがあるのではないか、と、僕は勝手に思っているんですね。ただ、日本の広告の王道にはなっていませんけどね。

小田嶋 その意味で、広告こそコラム=枠の仕事なんだと思うんだけど。

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著者プロフィール

岡 康道(おか・やすみち)

岡 康道

クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー。
1956年生まれ。80年早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてサントリー「BOSS」「南アルプスの天然水」、JR東日本「その先の日本へ。」など、時代を代表するキャンペーンを手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。
99年に日本最小最強のクリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を川口清勝、多田琢、麻生哲朗とともに設立。主なクライアントに、サッポロビール、大和証券、富士ゼロックス、リクシル、NTT東日本、大和ハウス、NTTDoCoMoなど。TCC最高賞、ADC賞、ACC賞、ニューヨークADC賞、クリオ賞など受賞多数。TCC会員、ニューヨークADC会員。現在、雑誌ポータルサイト「magabon」にて、エッセイ連載中。近著に「ノンタイトル」(電子書籍)

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界をまたにかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

人生の諸問題

日本語は今や、ウェブ上で全世界でもっとも流通している言語だといわれるまでになった。しかも、読む人間より、書く人間の方が圧倒的に多いのだという。それほどまでに人々が文章を書いている一方で、相手に何かを伝えることの難しさは、むしろ増えているように思える。「誰もが発信者」、そんな史上初のシチュエーションを迎えた今、いったい私たちの「コミュニケーション」はどこに行くのだろう。広告の世界でクリエイティブディレクターとして活躍する岡康道氏と、コラムニストの小田嶋隆氏が、高校時代の同級生という縁から始まった「伝達」について、ゆるゆると語り尽くす…はずだったのだが?

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