日本最強の広告クリエイティブを率いる岡康道氏と、希代のコラムニスト、小田嶋隆氏、ふたりは高校の同級生だった。「伝達」を生業とする旧友が台本抜きで論じるコミュニケーションの技術論トーク、それが「人生の諸問題」。おまたせしました、3月7日「地デジ」と「カンヌ」と「ギャンブル」と以来の「人生の諸問題」再開です。編集部側の諸事情で大変時間がかかってしまいましたこと、お詫び申し上げます。今回からしばらく、岡さん、小田嶋さんがそれぞれ作った広告、書籍についてのお話をお送りします。これまで同様、ゆるゆるとお楽しみ下さいませ。(編集部)
岡 僕は最近、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の第1巻を読み始めて。
小田嶋 文庫版の新訳シリーズか。
岡 そう。
小田嶋 面白い?
岡 面白いんだよ、これが。実は高校時代に読んだとき、こんなつまらないものはあり得ない、と思って何も覚えていなかったんだけど、今、読み直してみたら、何でこんな面白いものをつまらなく感じたんだろう? というぐらい面白くてさ。
小田嶋 俺は中2のときに『罪と罰』を読んで全然分からなくて、何、これ? って大嫌いになった。それも途中で挫折するような人はまだいいんだけど、俺は半ば勉強家だったから、苦しいのに最後まで読んで、それで大嫌いになっちゃった。
岡 僕は最近、映画も本も、もう自分に合わないな、と思ったら即座にやめる。だって、持ち時間が残り少ないもの。
映画は四半世紀ぶりに見ました
小田嶋 俺の場合、映画は守備範囲ではないと、あらかじめ決めていて。この間、「ロード・オブ・ザ・リング」を見たときに、映画館で映画を観るのはいつぶりだろう? とふと思って、思い出してみたら「インディ・ジョーンズ」以来だった。
岡 それって25年ぶりぐらいか。だとしたら4半世紀の空白だよ。
小田嶋 「インディ・ジョーンズ」の前は「家族の肖像」ぐらい。1976年。難しい女の子に連れていかれて、すごく苦しんだのは覚えている。
岡 僕は高校生のときまでは結構観ていたんだけどね。それで大学へ行ってまったく観なくなって。大学時代に「ロッキー」の「1」「2」だけ観て、電通の営業時代は「3」と「4」。だから8年間で4本しか見なかった。
小田嶋 「ロッキー」4本だと、クリエイティブ局に移ってからはつらかろう。
岡 そうそう。まったく映像の仕事なのに、映画の話が分からないなんて論外だった。だからそこから猛勉強をしましたね。以来、週に1本は必ず観ている。
小田嶋 岡というのは、そういうところが偉いよね。俺はあれだもん。本は読んでいるんだぞ、とひけらかしで周囲を圧倒しつつも、映像の話をされちゃうと言い負かされるわけ、いろいろ。そこですぐひねくれて、俺は映像一切その辺は分からないと、シャッターを下ろしちゃう。直近は何を見たの?
岡 一番新しいのは、「ヒトラーの贋札」ですね。(※編集部注:すみません、収録から相当時間が空いているので、当時のお話ということです)
一同 (誰も知らない)
岡 あれはいい映画でした。
小田嶋 俺、昨日あれを見てきたのよ。岡にもらったDVD(=「岡康道CM作品集私家版」)をさ。パソコンで個人的に見ようとしたけど、今、うちのパソコンの調子がおかしくてダメだったんだよ。で、しょうがなく居間にあるテレビで、家族全員で見ることになった、という。
岡 いやいや、広告というのはそういうものなんだ。
小田嶋 だけど、お前の作ったものはね、家族で見ると嫌な空気が流れてね。
岡 ははは。
小田嶋 引っ込みがつかなくて、一家4人で小1時間見ちゃったんだけど。何かエッチな番組が始まってしまう、というような、よくある気まずさでは全然ないんだけど、出てくる家族がみんなイヤな家族で、触れてはいけないところに触れてきて・・・・・・。
岡 まあ、そう、確かにね。
余白? それは見ている人におまかせ
小田嶋 うん。でも、それで1つ気が付いたのは、コラムニストってコラムを書くわけだけど、適当に書き始めて着地さえ決まればいいや、みたいなところがあるの。だけど岡のやっていることは、とてもその正反対だなと思って。というのは、CMってとにかく30秒だか15秒だかの映像で、何かを表現しなきゃいけないわけだけど、そういうのは基本的に無理じゃん。
―― 小田嶋さんは、あっさりと諦めると。

コラムニスト 小田嶋隆氏
小田嶋 でしょう。家族にしても、30秒では描ききれっこないじゃん。でも、こいつのやっていることは違うんだよね。描ききるということを一切しなくて、何か素材として1個を放り出して、あとは自分で埋めてくれ、みたいなやり方で、コラムになぞらえて言うと、書き出しの20行ぐらいを書いて、あとはお前らで埋めてくれ、みたいな、そういう方法なのよ。
俺はコラムを書くとき、面白い書き出しだとか、次を書きたくなるような書き出しだとか、余白を埋めたくなるような書き出しだとか、とにかく書き出しというのはあまり考えたことがないんです。でも、岡はそういう手口をたくさん持っているな、と思って感心しました。
岡 余白を埋める作業というのは、見る人の想像する力だよね。そういうところに委ねたいというか、そういうことにスイッチが入ってくれたら、僕としてはうれしいわけです。ただやっぱりそれは、クライアントからすると、何でこれ、はっきりしないんだ、という怒りにつながりやすくて(笑)。
小田嶋 怒る前に、置いてけぼりにされてしまう、という感じだよ。
岡 だから、芭蕉だっけ、すべてを言ってどうするんだ、というようなことを言っているエラい人がいますよね。そういうことは映画や本に限らず、広告でも当てはまるところがあるのではないか、と、僕は勝手に思っているんですね。ただ、日本の広告の王道にはなっていませんけどね。
小田嶋 その意味で、広告こそコラム=枠の仕事なんだと思うんだけど。
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