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カネも愛も会社も信じられないそのときに~『ナチスと映画』
飯田道子著(評:尹雄大)

中公新書、820円(税別)

2008年12月9日(火)

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評者の読了時間5時間00分

ナチスと映画──ヒトラーとナチスはどう描かれてきたか

ナチスと映画──ヒトラーとナチスはどう描かれてきたか』 飯田道子著、中公新書、820円(税別)

 1924年7月4日付けの日記に、後にナチスの宣伝相として辣腕を振るうゲッベルスは、このように綴った。

「夏の大地が雨に焦がれるように、ドイツはただ一人の男を待ち望んでいる。最後まで力を結集し、熱狂して献身することだけが、われわれを救ってくれるのだ」

 大学卒業後、作家を志望したものの夢叶わず、悩んでいた時期だ。挫折した青年の屈託は、時代の醸成した気分でもあった。

 6年後、「嘆きの天使」でデビューしたマレーネ・ディートリッヒは映画の中でこう歌った。

「あたしが求めているのは、一人の男、ほんものの男なの」

 社会の願望と劇中の希求が交差した後、人々が見たのは、「ドイツ人は最も優れたアーリア人種の子孫であり、世界で最も優秀な民族である」という虚構の観念を訴える男の姿だった。人々はヒトラーこそ「ほんものの男」であると認め、彼が権力を握ることを支持した。

 ホロコーストをはじめとしたナチスの行いは「人道に対する罪」であり、言語道断の絶対的な悪であることは言を俟たないだろう。しかし、ただ邪悪な存在として退けるだけでは「なぜあれほどの蛮行が粛々と行われたのか?」という問いに対する充分な答えは得られない。

 本著はナチスが映画という新興メディアを利用することで、国民をどうナチ化しようとしたか、そして、戦後の商業映画におけるナチスの描かれ方の変遷から、ナチスの本質を解読しようとする。

 1920年代はドイツ映画の黄金時代と呼ばれていた。青年期のヒトラーもゲッベルスもスクリーンに熱い眼差しを向けていたというが、著者によれば、彼らは〈多くの作品を観、そこから影響を受けた。この二人がメディア宣伝を指揮した帝国も、映画にとても似ていた〉

 ゲッベルスの言葉を借りれば、帝国も映画も「魚が水を必要とするように、センセーションを必要としている」ところで似通っていた。

「スーパースター」ヒトラーと頑健な「ドイツ人」

 ドイツの20年代は文化的に爛熟期でも、第一次世界大戦の敗北による痛手から〈インフレに次ぐ、インフレで、一兆分の一にまで価値が下がったマルクは紙くず同然〉であり、政治的、経済的に疲弊していた。

 だが、ヒトラーは経済を好転させ、完全雇用を達成した。その手腕に加え、ナチスの〈揃いの制服に身を包み行進する姿〉が人々の耳目をそばだてた。没個性的であるがゆえに、個人の思惑を超えた崇高な民族の意志との一体感を感じさせたからだろう。

 リーフェンシュタールの手掛けたふたつの作品は、その大衆の感覚をより強固なものにした。ひとつは34年のナチスの党大会「意志の勝利」、もうひとつはベルリンオリンピックの記録映画「オリンピア」だ。

 著者は「意志の勝利」の鮮烈さをこう表す。

〈俯瞰的なパースペクティブから捉えられた群集は、美しい模様となって、ナチスが目指した全体主義的な運動をスクリーンに体現してみせる〉

 また、映画の中のヒトラーは〈一人の政治家にとどまらず、「スーパースター」の役割を演じることになり、(略)現在の視点から見ても、神格化されたヒトラーの姿が記憶にとどめられる〉効果を発揮した。

 次いで「オリンピア」は、ギリシア古代の彫刻をオーバーラップさせた若い男の肉体が躍動するなど、〈ナチスが奨励した健康美と酷似している〉

 むろん、健康美はドイツ人だけに当てはまることで、頑健な身体をもったユダヤ人は排除されていた。人々は映像に熱狂すればするほど、「ユダヤ人問題の最終的解決」に結実する反ユダヤ主義に満ちた現実を忘却できたというわけだ。

 リーフェンシュタールは終生、「自分は非政治的だ」と訴え続けた。つまり、あくまで作品を制作したのであって、ナチスに協力した覚えはないと。しかしながら、〈結果的には、リーフェンシュタールの作品は、ナチスのプロパガンダとして有効に機能した〉

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