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10. ボンクラも度を過ぎると怒られもしない。

町田康『自分の群像』

  • 千野 帽子

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2008年12月17日(水)

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 日直のチノボーシカです。

 派遣社員の某さん(ロスジェネ)から、こんな話を聞きましたよ。

 彼女はその職場で、広義のデスクワークをしている。ちょっと特殊な技能・資格を要する仕事なので、一般の派遣業務に比べると、時給は高いほうだろう。

 その部門では、それなりに大きな予算を取ってきて動かしたりすることもあるのだが、まったく人手が足りていない。というか、ろくに正規職員を雇用せず、派遣社員だけで回そうとしているのが見え見えなのである。

 セクションには、某さんのほかにもうひとり、彼女より前から派遣社員のXさん(アラフォー)がいる。Xさんは、出入り業者の営業担当と話をするのが好きな人らしく、メールで済む仕事をやたら電話でやろうとしたり、仕事中にどうでもいい話を振ってきて某さんの集中をさまたげるなど、お世辞にも効率のよい人とは言えないが、それはそれとして、その人もたいへん困っていることに違いはない。

 なにしろ仕事の量が尋常ではなく、相対的に見て、積み残しの仕事が日々増えているのである。毎日100の仕事がやってきて、ふたりで残業しても50しか片づかないとすれば、翌日には残量50プラス新規100の合計150の仕事が待っていて、さらにその翌日には200の仕事が待っていることになる。

 ある日彼女たちは、上司(もちろん正規雇用)に仕事の進行状況が絶望的であることを訴えた(責任者であるはずなのに、上司は現状を把握しきれていないのだ)。

「どう控えめに見積もっても、3人は絶対に必要な仕事を、私たちふたりで回しているんです!」

とXさんが上司に強く訴えているのを、某さんも同意しつつ聞いていた。

 ひとしきり上司に窮状を訴えたあと、Xさんはため息をついて言った。
「まったく、私だって、ひとりで1.7人ぶんの仕事を片づけるの、たいへんなんですから!」

 えええええ! とこんどは某さんが愕然としてしまった。

 なんでその「幻の1人ぶん」の仕事量が7・3分けになっちゃうわけ? ていうかなんであんたが7?

*   *   *

浄土

浄土』町田康(著)、講談社文庫、580円(税込)

 町田康の短篇集『浄土』中の一篇、『自分の群像』(2005)は、会社組織における仕事の効率と配分という題材から書き出されている。

 舞台となるのは広いオフィス。ここで働く主人公の方原位多子は、ふたりの同僚に悩まされている。ひとりは〈むかつくボンクラ〉、もうひとりは〈腐った男〉である。

 約60頁弱の短篇の、半分以上の分量が、この〈むかつくボンクラ〉と〈腐った男〉の説明に充てられていて、本筋らしき部分が残り20頁ちょっと、という構成がなんともユニークである。残り20頁のシュールな展開については詳述せず、〈むかつくボンクラ〉と〈腐った男〉のキャラクター造形についてのみ紹介しよう。

 若い同僚の玉出温夫は〈むかつくボンクラであった〉。こいつに仕事を頼むと、必ずといっていいほど二度手間、三度手間になってしまうのだ。

 ただぼんやりと他社にお使いに行って名刺だけ置いてくるとか(ああ、私・千野も似たようなことやっちゃったかも…)、相手の在宅を確認せずにバイク便を出して、書類が戻ってきたので、電話で改めて連絡を取ろうとするが、要領が悪く、いつまでも書類が届かないとか、昼食を取るのになぜか2時間かかったり。

 しかも、叱責されるとにやにや笑いを浮かべる男なのである。その笑いは

おかしくて笑っているのでは決してなく、相手の自分やそれを取り巻く無理解、情報不足に対して、今は諸条件が整わないので説明しないけれど、それにしてもそんな無理解に基づいて僕をボンクラ扱いするなんて困ったなあ、というこの困ったなあ、というのは僕が困っているのではなく、すべてが明らかになったときあなたの立場が悪くなるんじゃ、気の毒だなあ、困ったなあ、というそういう困ったなあ、なんだけれども、とにかく困ったなあ、いやあ、参った。参りました。みたいな意味内容を伴う笑い

なのである。しかもそのとき温夫は必ず〈えっ? そうだったんですか?〉と意外そうに言うのだ。

そんな事実は自分はついぞ知らなかった、と言っているのである。〔…〕もし仮にそのことを自分が事前に知っていれば、そんな失敗はしなかった。知らなかったから失敗したのであって、知っていれば失敗しなかった。つまり、自分はボンクラではない、ということを導き出しているのである。

 たしかにこれは〈むかつくボンクラ〉だが、私など、自分がこういうタイプの人間なのではないかと思うことがよくあります。周囲のみなさんごめんなさい。

 そしてなぜかこの温夫の尻拭いを、この職場では位多子がやる羽目になってしまっている。その背後には、陋劣なるもうひとりの同僚・似田静介の暗躍があった。

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