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「ハケン切り」の品格

「派遣切り」(用途:労働問題を真面目に考えたくない際に)

2008年12月24日(水)

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 「派遣切り」という言葉が、いつの間にやらメディア頻出単語のトップに登り詰めている。

 奇妙な言葉だ。
 朝から何回も聞いていると、なんだかもやもやした気持ちになる。

「派遣を切ることのどこがいけないんだ?」

 と、当方にそういう気持ちがあるからだろうか。

 そうかもしれない。このもやもやは、「使用済みのペーパータオルを捨てたことを女房になじられた時の気分」に似ていなくもない。

「だってお前、ペーパータオルってのは、捨てるための紙だぞ」
「乾かせば使えるでしょ」
「乾かして使うくらいならはじめから布のタオルを使うんじゃないのか?」
「屁理屈言わないの」

 いや、私は、派遣労働者が解雇されることを喜んでいるわけではない。彼らをペーパータオル視しているのでもない。

 ただ、切られることがあらかじめわかっている者が切られつつある現今の状況に、しらじらしくもびっくりしてみせているテレビの中の人たちの口吻に、偽善に似たものを感じているわけです。

 そもそも原理的に言って「派遣社員」というのは、「切る」ための社員だ。企業の側からすれば、不況に直面した時にいち早く整理できるからこそ、派遣労働者を雇い入れていたはずなのだ。それゆえ、もし問題があるのだとしたら、それは、「派遣社員を切ること」よりも、「派遣社員という雇用形態を容認しているわれわれの社会」のシステムそのもののうちにある……はずなのだが、こういう時に正論を言ってもしかたがない。

 実は、正論はみんなわかっている。

 でも、どうしようもない。だから、「貸し剥がし」「雇い止め」「派遣切り」「内定切り」……と、新規に作成される不況関連用語には、常に情緒に流れた詠嘆の調子がつきまとうことになっている。みんな大変だね、手を貸してあげることはできないけど、同情してるよ、と。雨に濡れた野良犬に傘をさしかける感じ。でも、連れて帰るわけにはいかないんだ。ごめんよ……ぐらいな。

 メディアの報道ぶりを見ていると、派遣社員を解雇した受け入れ先企業の冷血を責めるテの議論が目立つ。突然過ぎるじゃないか、と。

 でも、本当のところ、現行法からすれば、雇用責任の過半は、派遣先企業にではなくて、派遣労働者として彼らを登録している派遣会社にあるはずだ。

 なのに、派遣会社の責任を追及する論調はほとんど出て来ない。
 不思議だ。

 あるいは、「解雇より先に、なによりもまず役員報酬のカットが第一で、その次が従業員の給与の見直しであるべきだ。解雇という選択肢は最後の手段であるべきなんではないのか」式の、昔ながらの正論も、一向に主張されていない。

 ただただ、「かわいそうですね」「身につまされますね」「がんばってほしいですね」という情緒的な画面を流すばかり。彼らはやる気があるんだろうか。

 というよりも、そもそも、テレビ局は、派遣労働についてとやかく言える立場の職場ではない。

 あの業界(私も「派遣ディレクター」として籍を置いていたことがある)は、正規の派遣ですらない偽装出向や二重派遣やピンハネアルバイト労働の温床であり、タダ同然で働く業界ワナビーのアシスタントディレクター(彼らの中には「マスコミ業界で働けるなら時給なんか無くても良い」と思っている子たちが常に一定数いて、このことがADの最低賃金を引き下げている)や、スタジオの机の下で寝起きしているサービス残業スタッフみたいな人たちに支えられている、どうにもならないタコ部屋だからだ。

 でなくても、事実上の実働部隊であるところの制作会社の社員は、局社員の半分以下の給料で働いている。

 それでも、その制作会社の仕事を差配している局の社員たちが額面通りに優秀な人々であるのなら、それはそれでかろうじて細いスジは通る話ではある。が、どっこい、そうはイカの禁断症状で、局社員は、優秀であるよりは、むしろ良血な人々であるに過ぎない。具体的に言うと、毎年、テレビ局に入社する社員(数十人に過ぎない)の中には、少なからぬ数の政治家の子弟やクライアントであるところの一部上場企業重役の子女が含まれているのだ。で、これに、同業マスコミの関係者(Mのもんたの息子とかT原S一朗の娘さんとか)や、ミスコン優勝者が加わって、そうやってあらかじめ採用枠が埋まっている。よって無コネの試験突破組による就職倍率は実質数千倍になる。

 で、先頃、発表された「2008年全上場企業3733社年収ランキング」によれば、

《1位に輝いた朝日放送(大阪)は平均年収1556.7万円! 2位はTBS、3位はフジ・メディアHDと、ベスト3はテレビ局が独占。日本テレビ放送網も6位に入った。》(《》内、ZAKZAKより。リンクはこちら)てなことになっている。

 おそろしいことである。

 さて、労働者派遣法が改正されたのは小泉政権下の2004年のことだった。

 肝要なのは、法改正の事実そのものではない。法改正に先だってどんな議論があったのかということだ……と思うのだが、私の記憶では、たいした議論はなかった気がするのだね。

 一部に、低賃金労働の固定化や、派遣労働者の安易な解雇を危惧する議論があったのは事実だ。が、当時それらの意見はさして問題にされなかった。というのも、そのテのお話をする人たちは、あらゆる政策に対して常に危惧の念ばかりを表明している一派の人々で、一般人であるわれわれの多くは、いつも文句ばっかり言っている彼らの悲観的な語り口にうんざりしていたからだ。

 で、今回、彼らの懸念はモロなカタチで現実になった。
 突然の解雇という蟹工船以来の伝統的な筋立てで、だ。

 さよう。われわれは、彼らの声に耳を傾けておくべきだったのかもしれない。

 でも、多くの国民は、悲観論者の声をうるさがり、むしろ、もうひとつの声に耳を傾けていた。

 もうひとつの声というのは、具体的にはこんな感じのお話だった。

コメント143件コメント/レビュー

「会社とは何か」これは法で規定されいる。それは経済活動によって利益を生み出すことであり、なるべく多くの人を雇用する、などとは決められていない。企業が追加的労働力を必要とするとき、派遣会社との契約に基づいて派遣人員を採用するのであって、求められるのはその契約を遵守することである。もしここで、明らかに派遣労働力が必要でないにも関わらず、雇用を継続するのであれば、会社に損害を与え、経営者は株主代表訴訟で訴追されるはずである。会社に限らず、社会は法によって構成されているのである。従って、現状を問題視するのなら法を変更することが必要である。武田薬品の武田邦男社長はかつて言った。「会社の責務は利益を生み出し、たくさん税金を納付する事であって雇用義務はない。失業対策は国家の責任である。」(2009/02/08)

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「「ハケン切り」の品格」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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「会社とは何か」これは法で規定されいる。それは経済活動によって利益を生み出すことであり、なるべく多くの人を雇用する、などとは決められていない。企業が追加的労働力を必要とするとき、派遣会社との契約に基づいて派遣人員を採用するのであって、求められるのはその契約を遵守することである。もしここで、明らかに派遣労働力が必要でないにも関わらず、雇用を継続するのであれば、会社に損害を与え、経営者は株主代表訴訟で訴追されるはずである。会社に限らず、社会は法によって構成されているのである。従って、現状を問題視するのなら法を変更することが必要である。武田薬品の武田邦男社長はかつて言った。「会社の責務は利益を生み出し、たくさん税金を納付する事であって雇用義務はない。失業対策は国家の責任である。」(2009/02/08)

派遣といっても色々ある。その会社にない技術だったり、そういった社員を育てる時間がたりなかったり、どうしてもピークの仕事をやりきるとき、外部の人間の力を使う。これがアウトソーシング≒派遣です。不況により大量の失業者がでているのです。マスコミは、失業者を支援しようという表現をすべきだと思います。また経営者の責任や金融崩壊を招いた原因を明らかにするべきなのです。ただ現在のマスコミの記者にまともな取材できる人はほとんどいないと思います。私は、彼らに対して御用聞き記者という言葉を使いたい。しかたがないですが本当に残念です。(2009/02/03)

テレビで‘ハケン切られた’人達の顔見てると30代、40代でも共通のモラトリアム世代的な甘さを感じる。社会や人生と戦ってきた人間の顔じゃない。うちも請負やハケンの優秀な人たちには社員にならないか?って声かけていたけど、景気のいい時は売り手市場で、彼らは「一つの会社に縛られたくない」とより給料の高いところに移ったり、半年働いて半年アジアで暮らしたり、社員として縛られて上司や人間関係に気を使うのが嫌でハケンという選択をしていた。不景気になれば立場は逆転し一転買い手市場へ。景気のいい時は彼らは‘会社キリ’をしてより好条件に移ったり貯めた金で好きな事やったりしてたが今度は逆の立場に。自己責任という言葉はこうゆう時に使うものでしょ。いずれにせよ社会とも人生とも会社とも自分とも戦ってこなかった人がテレビに映っている。マスコミの連日の報道に日本人はみんなあれを鵜呑みにしてるのかと不安だったけど、今回のコメントの大半がちゃんと良識を持っていて安心しました。(2009/01/06)

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三品 和広 神戸大学教授