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12. 年頭訓辞2009 : 起て全国の非国民

21世紀の円本、ここにあり

  • 千野 帽子

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2009年1月7日(水)

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 あけましておめでとうございます。日直のチノボーシカです。今年もよしなに。

ネットカフェ難民 ドキュメント「最底辺生活」

ネットカフェ難民 ドキュメント「最底辺生活」』 川崎昌平(著)、幻冬舎新書、777円(税込)

 前回、2008年の最終更新で書いたように、年末年始の休みに、朝から寝転がって本を読むのが、私にとってのお年玉であり、ボーナスでもあります。この10年間というものは、本(しばしば古本)を買うという経済効果の薄い消費ばかりやっています。

 川崎昌平『ネットカフェ難民 ドキュメント「最底辺生活」』 (2007)。

 幻冬舎新書。新書だが、文学である。

 1981年生れの著者は、東京芸大の修士課程を修了後、ひきこもりニートとなり、そののちネットカフェを転々としながら日雇いバイトに登録した。

 その最初の1か月をレポートした『ネットカフェ難民』には、こんな時代の国策協力的な正しい文化消費のありかたが、じつに明晰に説かれている。重要なので、少し長いのは我慢してほしい。

文化に支払うお金がないのではなく、お金がないという漠然とした感覚〔…〕が、文化にお金を使わせないという状況を導いているのである。〔…〕

 これが差だ。僕の考える格差である。金銭の多少ではない、文化量の多少。〔…〕本当の格差とは、文化にこそ現れている。〔…〕より多くの文化に触れられる人間と、そうでない人間の差が、本当の「格差」なのである。〔…〕後者に選択肢は少なく、強いて言えばマスメディアが用意してくれたものを咀嚼することができる程度。〔…〕

 ジュースを飲み、タバコを吸い、漫画を読む。漫画は自分で選んだ漫画ではない。漫画喫茶の薄い本棚の一角、オススメコーナーなる場所にあったものを手に取っただけだ。「オススメ」を翻訳すれば「売れている」になる。「売れている」をさらに解釈すれば、それは「削減された選択肢」である。〔…〕文化に対して積極的になる気がない僕に向けて「じゃあこれでも読めば」と与えられたものにすぎない。「選ぶ気ないんでしょ。なら選んであげるよ」と渡された漫画。

事実はここまで単純ではない、と思いたい。けれど、事実は意外にここまで単純なものなのかもしれない。

*   *   *

 80年以上むかしの「オススメコーナー」の話。

 1927年の年頭、改造社の《現代日本文學全集》と新潮社の《世界文學全集》の刊行が始まった。これらは円本と呼ばれ、大ヒットした。

 1冊の定価が1円だったことに由来する名前である。物価の基準が違うからぴんと来ないかもしれないが、もちろんお買い得だったのである。

 同じ新潮社でほんの数か月前に完結したばかりだった《世界文藝全集》が、1冊2円50銭から3円だった。

 それだけでなく、1冊の収録量も多くて、《世界文藝全集》では2巻本だったゲーテの『ファウスト』、ドストエフスキーの『罪と罰』が、《世界文學全集》ではそれぞれ1巻本になっていた。

 コンテンツとしては5倍から6倍はお買い得ということになる。

 数十万セットの予約が殺到した。阿漕なことに、バラ売り不可だったのだ(だから、岩波書店の創業者・岩波茂雄に厳しく批判された)。

 数年前の関東大震災で傾いていた改造社は、円本で一発逆転に成功した。

 ヒットの理由も震災。印刷所がみんな焼けてしまったので、本がなくなり、価格が高騰していたところに、廉価な本を投入したからだ。

 とまあこれが、日本出版史に燦然と輝くヒット商品にして、投機的な「オススメコーナー」でもあった円本の基礎知識である。

*   *   *

 そして約80年が過ぎ、私は本(しばしば古本)を買うという経済効果の薄い消費ばかりやっている。

都に夜のある如く

都に夜のある如く』 高見順(著)、文春文庫

 たとえば私は、Amazon.co.jpで高見順の『都に夜のある如く』の文春文庫版を1円で買った。

 高見順は私の大好きな作家のひとりで、しかし同じく昭和10年代にデビューした太宰治や坂口安吾に比べて、いまは読む人がすっかり少なくなってしまった。40代の人には、タレント高見恭子の父と言ったらいいだろうか。私は太宰や安吾より高見のほうがずっと好きだ。

 Amazonの上記リンク先を見てほしい。この文を書いている現在、新本では流通していないから、新本価格の表示がないが、右のほうに〈新品/中古商品を見る〉のリンクがあるのがわかるだろう。そして現在は、こういう表示が出ている。

¥ 1より

 これこそ21世紀の円本である。

 この1円の本を買うために、340円の送料を払うというのも間抜けな話なのだが、そうやって341円で買った本が、我が家にはけっこうある。

 こういうのは世間的に「正しい消費」と見なされない。

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